『異常【アノマリー】』 謎に引きずり込む驚きの展開
2022.10.10 00:00
飛行機が登場するサスペンスやSFには“アタリ”が多い。仕事柄、身近なせいもあるのだろうが、密室に見知らぬ人々と一緒に閉じ込められ、ひとつ間違いがあると死ぬ、という状況は考えてみるとなかなかスリリングだ。
さて、その飛行機を舞台にした小説が今回ご紹介する作品だ。
発端は、21年3月21日のエールフランスのパリ発ニューヨーク行き006便。ひどい乱気流に巻き込まれたこの便に乗り合わせた乗客は無事着陸したことにほっとして、それぞれの生活に散っていく。だが3カ月たった6月24日にとんでもない出来事が起こり、乗客たちはある選択を迫られる。
凄腕の殺し屋、小説家、末期がんの患者、ナイジェリアの歌手、カエル好きな7歳の女の子、やり手の女性弁護士、魅力的なシングルマザーと彼女にフラれかけている建築家……。物語の最初は、背景も性格もばらばらな人物それぞれの人生が次々と語られていく。共通しているのは006便に乗った体験談だけだ。悩みも喜びも抱えたごく普通の人間たちの家や仕事場にある日突然、情報機関の職員が現れ、有無を言わさず連行されてしまう。自分たちが何をしたのかとおびえ、怒る人々に告げられた驚きの事実とは。
この「事実」も言えないのだが、ここからの二転三転する仕掛けが面白く、つまりは何を言ってもネタバレになりそうで、ここまでしか説明できないのでスイマセン。人生とは、と考える純文学でもあり、奇想天外なSFでもあり、ミステリでもある本書は、特に飛行機によく乗る皆さまなら面白さ倍増なことが間違いなし、という傑作だ。
フランスの権威ある文学賞、ゴングール賞を受賞し、110万部突破したベストセラー、ぜひご一読を。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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