揺れる鎌倉のストーリー 日本遺産認定再審査へ

2022.09.19 00:00

(C)iStock.com/ziggy_mars

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で注目を集め、日本遺産にも登録されている古都鎌倉の地位が揺らぎかねない事態だ。文化庁の日本遺産の総括評価により、認定取り消しの可能性もある再審査扱いになったからだ。世界遺産を断念した過去もある鎌倉。日本遺産まで失うわけにはいかないはずだ。

 日本遺産は、地域の歴史的魅力や特色を構成要素として、日本の文化・伝統を語るストーリーを組み立て、そのストーリーを日本にとって価値ある遺産として認定する文化庁の取り組みだ。ストーリーを語るためには有形・無形の文化財群が不可欠で、各地域が主体となってこの文化財群の整備・活用を進めることになる。また日本遺産のストーリーを国内外に発信することも日本遺産の条件となっている。その結果、地域の活性化と観光振興の促進に貢献することが期待され、日本遺産の創設目的の一つにもなっている。

 日本遺産の認定は15年度から毎年行われ、当面最後の新規認定となった20年度までの6年間に全国47都道府県・104件を認定。認定された日本遺産の取り組みに対しては、文化芸術振興補助金や文化資源活用事業補助金等の支援メニューが用意されている。

 文化庁は当面の目標であった「全国100件程度」の認定件数目標はクリアしたものの、認定地域ごとに取り組みへの温度差があることから、日本遺産ブランドの維持・強化へ向けた見直しを図り、20年には総括評価の仕組みの導入を発表した。

 認定地域は地域活性化計画(6年間)に基づき、認定後3年間は重点支援期間として文化庁から重点的な財政支援を受け、続く3年間は認定地域の自立・自走化に向けた準備を整えることが求められる。総括評価は、この6年間の計画期間を終了した翌年に、全期間を通じた取り組みを評価するもので、「計画の目標達成度合い」と「取り組み内容」が評価対象となり、いずれの評価結果も「不可」であれば認定が取り消される。

 また総括評価を受けるにあたっては新たな地域活性化計画(3年間)の提出も求められ、計画の審査の結果、認定基準を満たしていないと判断され、再審査のプロセスを経ても基準を満たせなければ、この場合も日本遺産の認定は取り消しとなる。

800年の歴史をモザイク状に

 鎌倉市は16年に「『いざ、鎌倉』~歴史と文化が描くモザイク画のまちへ~」として日本遺産の認定を受けた。鎌倉は12世紀に本格的な武家政権が誕生した地であり、政権の守護神を祭る鶴岡八幡宮を中心とするまちづくりは三方を囲む山の要所に切通を開削し内外を結ぶといった工夫を重ねることで基本的な都市構造を確立。いまも鎌倉の独特な街の魅力と風情をつくり出す要素となっている。

 鎌倉時代以降、都市としての盛衰があったものの、江戸時代中期以降は信仰と遊山の対象として多くの人々を引きつけ、いわゆる観光地として発展することとなった。さらに明治以降は東京近郊のリゾート地としての人気も高まり、政財界や華族、軍人たちが数多く訪れた時期もあった。文人墨客の居住地・別荘地としても知られるようになり、「鎌倉文士」なる言葉も生まれた。

 つまり、鎌倉幕府成立以来800年間にわたって歴史を積み重ねてきた鎌倉には、各時代の建築や芸術、行事等が文化として数多く伝えられ、歴史的・文化的な魅力が重層的に重なって街の魅力を成立させている。鎌倉市では、各時代を象徴する50件以上の構成要素をモザイク画のように組み合わせて紡いだストーリーを日本遺産として申請し、認定を受けたわけだ。

 鎌倉市は日本遺産の認定を受ける前の16年1月には国から「鎌倉市歴史的風致維持向上計画」の認定を受けたほか、社寺関係者や民間団体などからも日本遺産への取り組みを要望する声が上がるなど日本遺産認定への期待が高まった。また東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、社寺等の文化財を活用して鎌倉の魅力の発信を強化することや、受け入れ環境整備を進める必要があるとの指摘も重なり、日本遺産への取り組みを後押しすることになった。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年9月19日号で】

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