地域のストーリーづくりの壁 見直し始まる日本遺産ブランド

2021.09.06 00:00

(C)iStock.com/erdikocak

日本遺産事業の見直しを進めてきた文化庁は昨年12月、新たな事業スキームとして総括評価の仕組みや認定取り消し制度の導入等を発表した。これに基づき今年7月には再審査が必要となる4件を公表している。誕生から6年間を歩んできた日本遺産の現在地を見つめる。

 日本遺産は地域の歴史的魅力や特色を通じてわが国の文化・伝統を語るストーリーとして文化庁が認定するもので、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形のさまざまな文化財を総合的に活用する取り組みを支援する目的で設けられた制度だ。つまり日本遺産は、文化財(文化遺産)の価値付けを行うことで保護環境を整える世界遺産や文化財指定とは発想が異なるものである。

 日本遺産は地域に「点」として存在する遺産を「面」としてつなぎ、その存在を活用し、国内外へ発信することにより、最終的に地域活性化の実現を目的としている。認定された日本遺産の取り組みに対しては、文化芸術振興費補助金、文化資源活用事業補助金等の支援メニューが用意される。

 日本遺産は15年度に18件を認定し制度がスタート。20年までに100件程度の認定を目指し16年度19件、17年17件、18年13件、19年16件と認定数を順調に増やし、20年度に21件が認定リストに加わることで合計104件となり、全国47都道府県に日本遺産が存在することになった。

 これまで順調に認定件数が増えてきた日本遺産だが、文化庁は今後も日本遺産を活用した継続的な取り組みを進めていくためには認定地域ごとの取り組みへの温度差の存在などの課題があると判断。20年度に日本遺産フォローアップ委員会を設置し、日本遺産全体の底上げとブランドの維持・強化のための具体的方策の検討を進めた。

 その結果、20年12月に日本遺産フォローアップ委員会による「日本遺産事業の見直しについて(中間とりまとめ)」が発表された。中間とりまとめでは日本遺産事業の新しいスキームが示され、新たな制度の導入や地方自治体への財政支援の見直しが図られることになった。

導入された新たなスキーム

 導入されたのは総括評価の仕組みだ。総括評価では、日本遺産認定申請に当たって認定地域が立案した地域活性化計画を基に、その取り組み期間(重点支援期間3年間/自立・自走期間3年間の計6年間)を終えた日本遺産について、計画目標達成率と取り組み内容を評価する。いずれの評価も「不可」であれば認定が取り消しとなる。さらに総括評価をクリアした認定地域には新たな地域活性化計画(計画期間3年間)の提出が求められ、審査結果がC判定(認定基準を満たしていない)の場合は再審査の対象となり、そのうえで再審査結果もC判定であれば認定取り消しとなる。

 逆に新たな地域活性化計画を審査し、インバウンド需要の取り込み意欲やポテンシャルが高い地域を「重点支援地域」として選定し、重点的に支援。先進モデルの構築を図る。

 総括評価の仕組みは最初の総括評価に際し提出した新たな地域活性化計画(3年間)の期間を終了した翌年にも適用され、再度総括評価を受ける。

 もう1つの新たなスキームは「候補地域」の認定だ。日本遺産として認定する候補となり得る地域を候補地域と認定するもので、認定されるには地域活性化準備計画(対象期間3年間)の提出が必要となる。対象は新たに日本遺産認定を目指す地域だけではない。既存の日本遺産について、総括評価と新たな地域活性化計画の審査に基づき、認定地域ではなく候補地域として認定を維持する仕組みが新設されたからだ。なお新規認定を目指す地域は候補地域としての更新を行えるが、既存の認定地域が候補地域として更新することはできない。

 つまり今後、日本遺産は「認定地域」「(認定地域の中の)重点支援地域」「候補地域(新規認定を目指す地域)」「候補地域(認定の更新プロセスの過程にある地域)」の4つの類型に分類される。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年9月6日号で】

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