『これからの時代を生き抜くための文化人類学入門』 人間中心から地球への視点開く
2022.08.08 00:00
![](https://www.tjnet.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/43205895eee9b2f08644c94c7100f50f.jpg)
やや偏見まじりではあるけれど、観光関係者というのは異文化に触れる機会が多いせいか、たいてい文化人類学や民俗学が好物な気がする。興味の延長でちょっとかじってみる、みたいな人が多いと思うが、無知から来る偏見や差別意識を防いだり、世界紛争を理解したり、環境保護の必要性に意識を向ける助けになるのは間違いない。
文化人類学とはそもそもどんな学問なのか。その歩みと現在地を解説し、文化人類学の視点からいまの社会を眺めて見える問題点や、未来を考える手掛かりを語ったのが今回の1冊だ。
著者はボルネオ島の狩猟採集民・プナンの居住地で共に暮らし、フィールドワークを重ねた人類学者。トピックごとに章が分かれ、地域で異なる結婚やセックス、ジェンダーのあり方を語る「性とは何か」、シェアすることが尊ばれるプナン的社会のあり方を見る「経済と共同体」、成人や葬礼など多くの民族が独自に持つ通過儀礼や、いまも息づく土着の信仰を考察する「宗教とは何か」など項目別に文化人類学の視点を紹介した後、第5章の「人新世と文化人類学」へとつなげる。
“人新世”とは素人には耳慣れないが、新しい地質年代のことだそう。人類が環境に影響を及ぼし、その痕跡が地層に現れ始めていることから、これを新たな年代として設定しよう、という説だ。文化人類学的にいえば、いままで人間中心だった視点を、動物なども含めた複数種の絡まり合いに注目することで、地球規模の問題に取り組むことにもつながっていく、というわけ。
観光はそもそも文化・自然を損なう可能性をはらむ活動だ。文化人類学や人新世の視点を持つことで、持続可能な社会、持続可能な観光を目指す助けにもなる、というのをあらためて学んだ。
![](https://www.tjnet.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/27f8df253368c42861b9b2fd8c27289a-1.jpg)
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
カテゴリ#BOOKS#新着記事
アクセスランキング
Ranking
-
釜石市、持続可能な観光でまた称号 日本初のゴールド賞 鍵は地域のマネジメント
-
米国、グローバルエントリープログラムを本格運用へ 東京・大阪の面接会に参加多数
-
6月の客室利用率は前年割れ 閑散期と単価重視が影響
-
ファーイースト・ホスピタリティ、日本で3軒目のホテル運営開始 3倍の2000室に拡大へ
-
日本籍船のディズニークルーズ誕生へ オリエンタルランド参入で市場に活気
-
競争入札と談合 成長領域の落とし穴
-
日本でも金融×旅行の流れ 三井住友カード、外資系OTAと提携
-
ベルトラ、韓国大手OTAと提携 インターパークに訪日商品供給
-
『奏で手のヌフレツン』 壮大な神話のような読了後の満足感
-
ニューカレドニア観光局が休局 情勢不安で打撃 日本の回復も遅く