『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』 その日常から大国の謎を説く

2022.06.13 00:00

小泉悠著/PHP研究所刊/1760円

 いったいどうやったらプーチン大統領は軍事作戦をやめてくれるのか。

 同盟国や多くのロシア国民も含め、世界中が同じことを思っていそうだが、本稿執筆中の時点ではいまだ「進撃の巨人」状態なプーチン氏である。

 プーチン大統領はなにをどうしたいのか。ロシアをどう見せたいのか。っていうか、ロシアってそもそもどんな国だっけ。日本から近いのに意外と知らない、ヨーロッパでもアジアでもない、「ロシア」としか言いようのない存在感を放つ不思議な大国の日常の顔を、軍事・安全保障の専門家が紹介したのが本書である。

 「ロシア人は特にロシア人を信用しない」「一度身内扱いになるとどこまでも親切にしてくれる」という不信と信頼が同居するメンタル、日本人と真逆の「ルールがあると破りたくなる」国民性、ロシア正教への信仰の厚さ。暮らしの特色としてよく例に挙げられる「ダーチャ」(郊外の森にある別荘)と味気ない集合住宅が生まれた背景、近頃はヘルシー志向も強まってきた食文化……と、話題は多岐にわたる。

 印象的というか野次馬的な興味をそそるのは、やっぱりソ連時代に生まれた秘密警察のお話だ。当時の集合住宅には秘密警察だけが通れる通路があり、住民の暮らしを監視していたとか、国営ホテルの最上階のさらに上に「存在しない階」があり、そこが盗聴室なのは公然の秘密だったとか。

 この秘密警察KGB でキャリアを重ねたウラジーミル・プーチンがどういう思考を経て軍事行動に至ったのか、著者の考察が本書の最終章では語られる。

 一筋縄ではいかないけれども、魅力的な国ロシアはどこに向かうのだろう。旅行者が再び気軽に往来できるような未来があることを信じたい。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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