<PR>浜松市が仕掛けるウエルネスワーケーション

2022.02.28 00:00

浜松市がワーケーションにウエルネスを掛け合わせた新しい試みにチャレンジしている。解放感たっぷりの非日常空間で自身の健康に向き合い、遊びながら体を動かし、時々仕事もする。すでにトライアルツアーも行われたプログラムは、どのように構築されたのだろうか。

参加者は健康診断の結果を基に保健師と面談

 浜名湖を望む絶景ホテルに宿泊し、健康に関するアドバイスを受けながら、目にも鮮やかなフランス料理を楽しむウエルネスワーケーションプログラム。1日4時間以上のリモートワークに加え、農業体験や湖上クルーズなどのコンテンツも組み込んだ盛りだくさんな内容だ。

 浜松市でヘルスツーリズムを展開できないか。浜松市の健康増進課と浜松・浜名湖ツーリズムビューローの間でそんな話が出たのは21年の春のことだ。コロナ禍で国がワーケーションを推奨していたこと、市が協議会を設けてウエルネスを推進していたことなどから、ウエルネスとワーケーションの組み合わせが浮上した。

KAReN HaMaNaKo かんざんじ荘が舞台に

 「ウエルネスのコンテンツを提供できる聖隷福祉事業団保健事業部にも相談し、構想が固まっていった」と話すのは、ツーリズムビューローの前田忍理事兼事業本部長だ。そもそもウエルネスとは、健康な心身をもって豊かな人生を生き生きと歩んでいくこと。ヘルスではなくウエルネスを選んだのは、「医療色の強いプログラムではなく、楽しんで参加できるようなプランにしたかったから」だという。

スマートミールの仏コース料理「エヴァイユ」

 実現の舞台となったのは、浜名湖湖畔の大草山山頂に建つ「KAReN HaMaNaKo かんざんじ荘」。国民宿舎だった建物を浜松市が買い取り、リノベーションして宿泊できる体験型施設として昨年9月にオープンした。運営するクロシェットの髙橋秀幸代表取締役は「ウエルネスをテーマに非日常や癒やしが感じられる空間に改装した」と話す。浜松ウエルネス推進協議会に加盟していたこともあり、プログラムに参加する運びとなったが、縁あって迎えた総料理長が健康な食事・食環境の認証制度「スマートミール」の基準を満たす新しい概念のコース料理を聖隷福祉事業団の管理栄養士と共に作り上げたこともプログラムの要となった。

健康経営企業の受け皿に

 かくして、観光庁の新たな旅のスタイル促進事業のモデル事業にエントリーしたウエルネスワーケーションは、実証実験として11月と12月に4泊5日のトライアルツアーを実施した。事業者向けプログラムの当面の対象は、従業員の健康増進を経営課題として捉え健康経営を進める企業。重要なポストに就き身体に不調が出始める30代後半から50代をターゲットとする。今回、ツアーに参加したのは観光庁がモデル企業として選定した静岡銀行グループだ。観光庁によるマッチングで実現し、各月5人が参加した。

デスクワークで硬くなった体をヨガでほぐす

 4泊5日のプログラムの核はヘルスケアコンテンツ。保健師による健康相談、ウエアラブル端末での血糖値測定、ヨガや健康運動指導士の下でのウオーキングなど運動体験、管理栄養士による食育講座とそれを体験できる極上フレンチディナーが主なメニュー。なかでも特徴的なのは上腕部に装着するグルコース測定器だろう。運動後の変動を数値で認識できたり、食後に血糖値が急上昇する血糖値スパイクを発見でき、「自分の身体を知る良い機会になった」「丁寧なフィードバックがあって良かった」という感想が聞かれた。

 食事は「はじめは量が少ないと感じたが、体験してみて日頃のカロリー過多や野菜の本来の美味しさに気づくことができた」「塩分控えめなのに満足感があった」との声が多く挙がった。ツーリズムビューローの前田本部長は、「スマートミールや運動体験を通して自分の健康に何が必要なのか、参加者が気づけることが大きな効果」と話す。

爽快な浜名湖クルージングでリフレッシュ

 また、毎日4時間以上のワークタイムを設ける一方で、バケーションの要素を構成するレジャーコンテンツも充実させた。なかでも参加者が絶賛したのは浜名湖クルージング。あらためて浜名湖の良さを認識したり、参加者同士で打ち解ける機会になったりと感想はさまざまだが、「クルーズは浜名湖ならではの要素として必要だった」(前田本部長)。夏であれば中州に降り立ったり、地引網体験をすることもできる。

 もう1つ好評だったコンテンツに農業体験もある。特にオイスカ専門学校の学生に指導を受けながら土に触れる体験は、「無心になって気持ちをリセットできた」「学生との触れ合いは心洗われる体験だった」と思わぬ効果を生んだようだ。

丁寧に磨き上げ市場浸透へ

 5日間で構成したプログラムはやりたいことを詰め込んだ実験版だ。今後は参加者の声を聞きながら磨き上げ、2泊3日を標準にする。その際に課題となるのは料金設定や費用対効果だろう。このプログラムは3日で目に見えて大きな変化があるものではなく、健康への気づきを促すもの。前田本部長も「短期的な効果だけではなく、企業が重視する社員のプレゼンティーイズム(出勤しているが健康上の問題で労働に支障を来し、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態)の改善に向けた提案を目指したい」と語る。

 静岡銀行の経営管理部でウエルネスワーケーション導入の実効性を検証している田邊郁恵マネージャーは11月のツアーに参加した1人。「まずは余暇や健康への取り組みと業務の両立が可能なのか、目的や課題を整理するところから始めたい」としつつ、「思った以上のリフレッシュ効果があり、社員の健康面や多様な人材を雇用するためにも有効ではないか」と評価した。

 ツーリズムビューローは21年度中に2泊3日のモニターツアーを無償で行い、22年度以降はウエルネス推進協議会と連携して地域の大手企業に働きかけを行う予定。舞台となる実施施設を増やしていくことも課題としている。

 将来的には「ウエルネスワーケーションを商標登録し、よりコアな健康改善を目指す人向けに人間ドックを組み込んだプログラムも検討したい」(前田本部長)という。健康や医療のイメージを前面に出すのではなく、あくまでも楽しく参加できることが前提だ。クロシェットの髙橋代表も「浜名湖の豊かな自然と非日常空間に身を置くことでインスピレーションが湧くような体験をしてほしい」と話している。

 ワーケーションは各地で進んでいるが、産官学連携のウエルネスワーケーションは他に類を見ない。ゆっくりでも確実に浸透させていくことができれば、企業の健康経営を支えるだけでなく、旅行業界にとっても新たな旅の選択肢になり得そうだ。

トライアルツアーでは10代の学生や土との触れ合いといった体験も効果をもたらした