ウエルネスでいこう コロナ後の旅と健康

2021.09.20 00:00

(C)iStock.com/yurok

コロナ禍が生活者に与えた影響はさまざまだが、人々の健康やウエルネスに対する関心の高まりと意識変化は間違いなくその1つである。観光業界はかねてから健康やウエルネスと旅との相関関係を生かしたビジネスに取り組んできたが、その展開を拡大させるチャンスが巡ってきた。

 ウエルネスは日本人も耳なじんでいる単語ではあるが、まだすんなりと理解するのは難しい部類に入るのではないか。より分かりやすいのは、むしろヘルスだろう。これらの単語にツーリズムが付いた場合はどうか。日本ヘルスツーリズム振興機構によると、ヘルスツーリズムとは「旅行という非日常な楽しみの中で、旅行中のトラブルを回避したり、健康回復や健康増進を図る」ことであり、また「旅をきっかけとして、旅行後も健康的な行動を持続することにより、豊かな日常生活を過ごせるようになること」だと説明している。

 そのうえで、ヘルスツーリズムを分類すると健康増進を目的とした疾病予防と、病気の早期発見や早期治療を目的とするメディカルツーリズムに大別され、疾病予防カテゴリーの1つがウエルネスツーリズムだと位置付けている。ウエルネスツーリズムの具体的な内容としては、旅行先でのスパやヨガ、瞑想、フィットネス、ヘルシー食、レクリエーションなど、心身をリフレッシュして明日への活力を得られる活動が挙げられる。

 一方で最近ではヘルスとウエルネスの関係性に変化もみられるようだ。世界のウエルネス関係者が集うグローバルウエルネスサミット(GWS)の21年版トレンドレポートでは、直近のトレンドとして「へルスとウエルネスの融合」を挙げている。

 ヘルスは医学など自然科学に裏付けられるのに対し、ウエルネスは感覚や経験則、時には疑似科学に依拠してきた面も否定できず、2つは別物として認識されてきた。しかし、ヘルス分野にはより快適性やQOL(生活の質)が求められるようになり、ウエルネス分野ではより科学的な要素を取り入れようという機運が高まってきた。その結果、両者の溝が埋められつつあるというのだ。例えば病院が5つ星ホテルから多くを学ぼうとし始めていることなどに両者の融合の形を見いだせる。

 ウエルネスツーリズムの市場はコロナ禍前から急成長していた。グローバルウエルネスインスティテュート(GWI)によれば、15年から17年にかけて市場は毎年6.5%成長。これはツーリズム全体の伸びの2倍のペースで、17年には世界で8億3000万回のウエルネス旅行が行われた。また国際旅行をするウエルネスツーリストは平均して旅行1回当たり1528ドルを消費し、一般的な国際観光客より5割多くの消費活動を行っている。

 ウエルネスツーリズムは日本でも以前から注目されていた。JATA(日本旅行業協会)は同協会が提唱する「旅の力」について、07年に5つの効果・効用を発表した。その1つが「健康の力」であり、「日常からの離脱による新たな刺激や感動、遊・快・楽・癒しなどを通じ、からだやこころの活力を得、再創造へのエネルギーを充たす」ことができるとした。

 その後、旅行業界による旅と健康の相関関係についての研究が行われ、新たに明らかになったこともある。クラブツーリズムは東北大学加齢医学研究所と共同で、「旅行が認知症予防にもたらす効果」の研究を16年から開始し、今年7月に研究成果を発表した。それによると旅行をすればするほど主観的幸福度が高まるメカニズムが解明された。主観的幸福度の上昇が認知症リスクの低減につながることは先行研究によって証明されていたため、今回の研究結果と合わせて、旅行が認知症リスクを低下させる可能性があるとした。

 ウエルネスツーリズムを発展させるための人材育成も始まった。観光庁は今年、地域の観光産業を担う中核人材育成講座を全国8大学で開講したが、その1つの滋賀大学ではウエルネスツーリズムプロデューサー養成講座を設けている。対象は観光産業従事者で、同講座修了者はウエルネスツーリズム推進の中核を担うことが期待されている。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年9月20日号で】

関連キーワード