MICEの生き残り戦略
2021.02.15 08:00
いま、観光関連産業の中でコロナ禍の最大級の負のインパクトを受けている業界はMICEであろう。MICEとは、企業の会議・研修(Meeting)、報奨旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、見本市やイベント(Exhibition/Event)の頭文字をつなげた造語だ。大人数が参集するMICEではどうしても3密(密閉・密集・密接)の発生リスクがぬぐえない。それゆえ、主催者側は催行を躊躇しがちとなる。その結果、全世界的にMICE需要はしぼんでいる。
私が代表を務める日本インバウンド連合会も、昨春からリアルイベントを自粛、オンライン行事に切り替えた(年末にようやくオン&オフのハイブリッド形式の開催にこぎ着けた)。世界中でイベントやスポーツ大会が次々に中止となった。延期されて今夏開催予定の東京五輪の行方でさえ、いまなお不透明である。
こうした状況下、誰もがウェビナー(ウェブ+セミナーの造語)形式のイベントに参加するようになった。ところで人々はウェビナー参加時に満足しているのだろうか。正直私は不満足なケースが多い。リアルイベントに比べ、刺激・情報・触れ合いが圧倒的に不足しているからだ。ビフォーコロナ期は間断なく国内外のMICEに参加していた。たとえばシンガポールのマリーナベイ・サンズの巨大な会場で、各国のキーパーソンと熱く昼間討議した後、夜のレセプション交流会では親密に食事を楽しみ、友達の輪が世界に広がった。
ところがいま、国内外のウェビナーに参加しても、一方的に登壇者(それもリモートがほとんど)の講演を聞くだけだ。人の輪も広がらない。ウィズコロナ期となってようやく1年という短期間で、誰もがそうしたオンラインイベント運営に習熟できないのは当然だが、そろそろウィズコロナ時代のMICE運営の新しい知見の創出と蓄積が必要になっている。
このままのトレンドでいくと、MICE産業はコロナ禍明けまでもたない。では、どうすればいいのか。生き残り戦略の答えの1つはハイブリッド開催だと思う。大規模開催は難しくても、来場者の安心・安全を確保した上で少数のコアな人々を会場に集め、そこをメイン会場に各種ネットセッションを企画する。リアル会場の用意のないオンライン企画のみだとネット参加者は飽きる。そもそもオーディエンスは孤独だ。隣席者もいない自室等のPC前でヘッドセットで画面を眺め、孤独に音声を聞くだけでは退屈する。
ハイブリッド開催の長所は、(実際に催行してわかったことだが)ネットによる遠隔地の幅広い層の参加を可能としつつ、万全な感染症対策が前提だが、リアル会場での五感の情報提供が可能となる点だ。開催都市の景観、会場参加者の拍手や喝采、(着座してのマスク会食であろうと)ご当地の彩り豊かな料理やフルーツの映像がネットを通して遠隔参加者の想像力をかき立てる。
それゆえ、各種ネット会議システムのチャット機能やブレークアウトルーム(テーブルトーク)機能などを駆使し、オフラインのリアル会場とネット上のオーディエンスをつなぐハイブリッドファシリテーションスキルが、イベント運営者やMC(司会者)に強く求められる。ただし残念ながら、そうした人材は数少ない。
リアル単独開催およびネット単独開催のノウハウだけではハイブリッド開催で成功できない。ハイブリッドはオンとオフの単純な足し算でない別次元の高度なノウハウを要する。継続的に挑戦する覚悟が求められる。この高度な知見が身に付けば、ネット参加者にコロナ禍後のリアル参加を動機づけるような、O2O(オンラインToオフライン)戦術も可能となる。
中村好明●日本インバウンド連合会(JIF)理事長。1963年生まれ。ドン・キホーテ(現PPIHグループ)傘下のジャパンインバウンドソリューションズ社長を経て、現在JIF理事長として官民のインバウンド振興支援に従事。ハリウッド大学大学院客員教授、全国免税店協会副会長。
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