古民家と景観を守る方法

2021.01.18 08:00

 先日、能登半島を1年ぶりに訪問した。講演の前後に関係者に七尾市の魅力的な古民家群を案内いただいた。見事な古民家(豪農の屋敷など)が首都圏では考えられないほど安値で取引されていると聞き、驚いた(それでも需要は少ないという)。日本海側の豪雪地帯は雪の重みに耐える重厚な古民家が残っているといわれる。まさにその通りで息をのむほど見事な梁や柱が屋根を支えていた。しかし、人口者減少により、里山里海の農家や漁師の古民家の多くが空き家になったり壊されたりして、毎年その姿を減らしているとも聞いた。実にもったいない話だ。

 帰途、金沢市に立ち寄り、地元の観光事業者や建築士に案内いただき、奥深い金沢の魅力的なスポットを視察させてもらった。美味しい蟹も堪能した。久しぶりの金沢訪問だった。北陸新幹線開通以降、金沢駅周辺の開発が進み、20年には高級外資系ホテルもオープン。金沢城の修復も進み、新しい金沢のパワーを感じた。コロナ禍前には、欧米豪州系の外客をはじめ、国内外の旅行客を集め、金沢のブランド力はかなり上がっていた。コロナ禍により今回の旅では訪日客の姿こそ目にしなかったが、京都とまた違う金沢の魅力をあらためて再発見した。アフターコロナ期の金沢のインバウンドの復活はかなり目覚ましいものになるだろうと予感できた。

 金沢の魅力はその街並み・景観にある。金沢城址や21世紀美術館などのスポットや近江町市場の賑わいに加え、ひがし茶屋街などの風情ある街並み、町屋のたたずまいは古き良き日本の伝統美をいまに伝える。今回、新たに学んだことがあった。それは、上述した人々や市役所・観光協会の方々に教わったことだ。

 金沢でも高度成長期に伝統的な建物群がどんどん取り壊され、ビルに変わった。これに呼応し金沢市役所は、早くも1968年に全国に先駆けて都市景観に関する伝統環境保存条例を制定し、景観保全に取り組んできたという。96年に設立された金沢職人大学校も今回視察できたが、歴史的建造物を修復する職人を育成する学校までも金沢市は運営していた(全国で唯一)。目に見える金沢の都市美を支える、目に見えないシビックプライドの力を実感した。

 一方、そんな先進的取り組みの金沢市でさえ、直近で年間約100軒もの町屋が消失しているという(対策前は年間300軒弱も破却されていたらしい)。京都市では年間800軒の町屋がいまなお消失しているといわれる。日本全国でいえば、途方もない数の価値ある古民家が姿を消している。あと数十年もすれば日本から古民家や町屋はほぼ消滅するだろう。重要な文化財と違い古民家は保護されない。実際、新建材の住宅に建て替えた方がコストははるかに安い。都市部や有名観光地であれば、土地の高度利用のため、古民家を壊してビルを建てた方が収益も上がる。

 しかし、日本があと50年100年、目先の経済合理性だけで生きた文化財を破却し続ければ、日本固有の(特に地方の)生活文化資産は消滅し観光立国として生き残ることは困難となる。では、どうすればいいのか。今回熟考させられた。思いついた解決策は政府支援による需要創出である。まず、築年数の古い査定済みの登録古民家の宿泊体験を子供の義務教育課程に組み込む。2つ目は登録古民家を活用した宿泊・飲食等施設を利用する際に大人向けの割引クーポンを発行する。3つ目はコミンピング(古民家の庭先のグランピング)の振興支援である。古民家という資産保全は明日の観光立国の礎となる。古民家所有者や自治体の努力だけでは限界がある。国の支援制度創出がいま求められている。

中村好明●日本インバウンド連合会(JIF)理事長。1963年生まれ。ドン・キホーテ(現PPIHグループ)傘下のジャパンインバウンドソリューションズ社長を経て、現在JIF理事長として官民のインバウンド振興支援に従事。ハリウッド大学大学院客員教授、全国免税店協会副会長。

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