『神の木 いける・たずねる』 日本人に添う特別な存在
2021.02.01 00:00

盆栽とか水石とか、トシを取るとだんだん動きが少ないものに惹かれるようになるというが、吾輩も最近は木に目が行くようになってきた。宿に新しく庭ができて、槇や紅葉、椿、杉、山茶花などさまざまな樹木が植えられ身近になったのもあるし、京都ではご神木をよく見るせいもある。
旅関係のコンテンツも多いので、業界人にもなじみが深いと思うビジュアル本「とんぼの本」。今回ご紹介するのは、ご神木がテーマの1冊だ。
椿、樟、槙、杉、梶、桂、檜、柞、松、白膠木、柳、欅。本書に登場するご神木だが、そもそもフリガナがないと読めない……という吾輩レベルの物知らずでもわかりやすい。国文学者・光田和伸がそれぞれの歴史を語り、花人・川瀬敏郎がそれを活ける。古来稲作の大きな助けとなり、やがて崇められるようになった樟。水と深い関わりを持つ桂。日本には雄の木しか伝わらなかった柳。どの話も興味深く、これらの木々が神木として大切にされている各地の情報も旅の参考になりそうだ。
特に目を奪われるのは木々の活け込み写真。表紙になった杉でもわかるように、川瀬氏の作品は枯葉を使うこともあれば、葉を水に浮かべただけのものもある。器も古代ギリシャの壺や李朝白磁の大壺など、木の色や大きさ、姿に合わせて変幻自在。なぜこうしたのか、という解説も面白い。
木を神聖なものとして敬う風習は世界各地にあるが、日本のそれは特別深く、広く、さまざまな形で生活に根付いているように思う。建物を造り、農業の助けとし、薬を作る。日本がいかに自然豊かな国で、人々は自然に添って生きてきたのかが伝わる1冊だ。散歩や山歩きの時、風景がちょっと変わって見えてくるかもしれない。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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