『るん(笑)』 現実世界と重なるディストピア
2021.01.18 00:00
![](https://www.tjnet.co.jp/wp-content/uploads/2020/12/af228b0e7552d9f50430ec54e5d0b76a.jpg)
右往左往するうちに終わってしまった20年。今年はもうちょっとマトモな1年でありますように……。
と、思いながら、21年最初の1冊はあまりマトモではない、でもだからこそすこぶる面白い小説をご紹介。
「血液型何型?あー、やっぱりねえ」なんて会話の相手に決めつけられる。民間療法で肌が腫れて痛そうなのを「好転反応」という。教育と称して子供たちにトイレを素手で洗わせる。そんなこんなに違和感を感じたことがある人なら、きっとこの物語に背筋がザワザワとするはずだ。
お話の舞台はいちおう日本。ただしこの世界では、人々は精神世界にどっぷりで、科学的な医療は崩壊している。人間関係は「心縁」で結ばれ、その紹介者が重んじられる。病気は「丙気」と呼ばれ、代替医療が幅をきかせ薬はまともなルートでは入手困難。電磁波を発するスマホやPC は忌むべき存在だ。
3つの物語の主人公たちは、そんな世界に生きづらさを感じている。長いこと熱が下がらない土屋は免疫力を信じる妻・真弓に隠れて薬を手に入れようとする。重い病に冒された真弓の母・美奈子は治療にと千羽鶴を開いて贈り主全員にお礼する「千羽びらき」をさせられる。真弓の甥・真はなぜか世界から排除された「猫」の存在に出会い、不思議な体験をする。
読者からするとデマや不信がはびこり、行政も機能しないディストピアだが、物語世界の大半の人々には居心地がいいユートピア。どうしたって今の日本と比べてしまうが、特にコロナ禍で起きた混乱や行政不信などを思うと、どこかで一線を越えたら私たちはこの世界に行ってしまう、とぞわっとする。
爽快な物語ではないけれど、今の時代に読むと一段深く心に刺さる小説だ。
![](https://www.tjnet.co.jp/wp-content/uploads/2020/12/71f19695a1dbdfd42aec680f5ae68aa7-1.jpg)
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
カテゴリ#BOOKS#新着記事
アクセスランキング
Ranking
-
釜石市、持続可能な観光でまた称号 日本初のゴールド賞 鍵は地域のマネジメント
-
米国、グローバルエントリープログラムを本格運用へ 東京・大阪の面接会に参加多数
-
6月の客室利用率は前年割れ 閑散期と単価重視が影響
-
ファーイースト・ホスピタリティ、日本で3軒目のホテル運営開始 3倍の2000室に拡大へ
-
日本籍船のディズニークルーズ誕生へ オリエンタルランド参入で市場に活気
-
競争入札と談合 成長領域の落とし穴
-
日本でも金融×旅行の流れ 三井住友カード、外資系OTAと提携
-
ベルトラ、韓国大手OTAと提携 インターパークに訪日商品供給
-
『奏で手のヌフレツン』 壮大な神話のような読了後の満足感
-
ニューカレドニア観光局が休局 情勢不安で打撃 日本の回復も遅く