静かに進むNDC 国際航空券流通の新ステージ
2020.11.30 00:00
新型コロナウイルスが人々の移動を阻み、航空業界をかつてない危機に追い込んでいる。早期の需要回復は見込めず、コスト削減と事業構造改革に拍車がかかる。そうしたなか、日本で静かに導入が進みつつあるのが国際航空券の新流通規格だ。
IATA(国際航空運送協会)は7月、世界の航空需要が19年の水準に回復するのは24年になるとの見通しを発表し、5月時点の予想から1年先送りした。世界観光機関(UNWTO)も国際旅行者の回復は最短で23年6月ごろ、最大で24年末と予想しており、見解は一致する。そうした状況下で舞い込んできたのが、デルタ航空(DL)がIATAの推進する新流通規格(New Destribution Capability=NDC)の実装に向けた開発を一時中断するというニュースだ。経営破綻や国に資金援助を求める航空会社が相次ぐなか、流通戦略の転換はなんら不思議なことではない。しかし、これがある種の納得をもって受け止められたのは、IATAが12年から乗り出したこの流通改革が大きくは進展していないからだ。
NDCは、国際航空券流通の共通基盤となっている現行のGDS(Global Destribution System)に比べ、取り扱える情報量が豊富なのが最大の特徴だ。テキストだけでなく、画像や動画、音声などリッチコンテンツを用いて座席や機内食、ラウンジといった付帯サービスを販売できる。ネット流通では当たり前のことが国際航空券流通においては航空会社の公式ホームページなど直販チャネルを除いて行われておらず、時代に取り残されている。
「何より、NDCでは旅行会社に直接提案できることが大きい」。日本で来夏のサービス開始を目指すエールフランス航空/KLMオランダ航空(AF・KL)のクリス・ヴァン・エルプ日本・韓国・ニューカレドニアコマーシャルディレクターは利点を挙げる。これまでは航空会社がGDSに運賃情報を登録すると、旅行会社が予約完了するまでノータッチの状況。これがNDCでは、旅行会社やその先の顧客のニーズに合わせて提案など双方向のやりとりができる。
それでも普及が遅々として進まないのは、投資額の大きさや、航空会社ごとの導入度合いと適用範囲のばらつき、複雑な手配での汎用性の低さゆえだ。コロナ禍で国際線需要が急減する現状もあり、ややもすればNDC導入は停滞しかねない。そうした状況とは裏腹にここにきて日本では基盤整備が静かに広がりつつある。
全日空(NH)は9月24日、グーグル上で航空券予約とこれまで自社サイトなどに限定していた事前座席指定を開始した。「グーグルで予約」のサービスを利用し、NHのサイトに移行せずに検索から予約、決済まで行える。NHはNDCを活用する基盤として、自社の予約システムと外部提携企業のシステムを直結するプラットフォームをオープンジョー・テクノロジー(本社:アイルランド)と共に開発済みで、この基盤を生かし、英トラベルフュージョンを配信役(アグリゲーター)としてサービスを開始した。比較検索サービスを提供する企業とのNDC接続は今回で2社目で、3月にはスカイスキャナーで開始している。
ANAに続きJALもそろり始動
ANAグループは目下、コロナ禍でドラスティックな事業構造改革に取り組んでいる。21年3月期連結決算で5100億円の最終赤字を予想するなか、大型機の削減や社員の外部企業への出向、賃金削減、ANAセールスの分割などを行い、22年3月期の黒字を目指して4000億円規模のコスト削減を行う計画だ。そうしたなかでもNDCを推進する方針に変更はない。
全日空の冨田光欧上席執行役員マーケティング室長は、「ネット取引でリッチコンテンツは当たり前になりつつある。コロナの影響で時間軸は延びた可能性はあるが、流れが変わっていない以上、インフラは整えていかないといけない」と語る。提携先にはリアルでの取引を主とする既存旅行会社も見据えるが、コロナ禍の影響などでシステム開発など体制が整うまでに時間を要するとみて、動きが停滞していないデジタルの分野を先行させる。
【あわせて読みたい】NDCがもたらす地殻変動 航空券流通が新局面へ
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