『三つ編み』 三者三様に描かれる女の生きづらさ
2020.11.23 00:00

フェミニストではないと自認しているのだが、50代になっても仕事と旅ばっかりしているうちに女性の生きづらさに目が向くようになってきた。昨年発表されたジェンダー・ギャップ指数で世界121位と過去最低を更新し続ける日本はもちろん、社会状況や程度は違えど多くの国で女たちは息苦しい思いをしている。「男はつらいよ」かもしれないが、「女は生きづらい」のだ。
本書はフランスで100万部を突破したベストセラーで、日本でも評判となった小説だ。登場するのは3人の女性。北インドに暮らす不可触民のスミタは、便所さらいで生計を立てる最底辺の女。イタリアのパレルモで毛髪加工の工場を家族運営するジュリアは、読書好きなごく普通の若い女。カナダのモントリオールで働くシングルマザーの弁護士サラは、シビアな業界でのしあがってきたバリバリのエリート。
物語はこの3人の生活を順番に追っていくスタイルだ。スミタは娘に教育を受けさせたいと願うが、カーストの壁はあまりに厚い。恋に夢中になるジュリアだが、父親の事故で明るみになった事実が人生を一変させる。サラは、気づかないふりをしていた不調が乳がんであると告げられ、必死で築いてきたキャリアが突然風前の灯となる。
まったく接点がない3人だが、女性であるというだけで不条理に直面し、生きにくさにあがくのは同じ。外からは男女平等で女性が輝く社会に見えても、内実はそんなことはない、というのを筆者は3人の姿を通して穏やかだがキレのいい文体で描いていく。
中編小説といってもいいほど、さほど長くない物語で読みやすいので、通勤や移動のお供にちょうどいい。最後、髪を通して結ばれる3人の運命に心地よい余韻が残る物語だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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