『鬼滅の刃』日本に元気をくれるメガヒット作
2020.11.09 00:00

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
配給:東宝・アニプレックス
世の中全体がしょんぼりムードなせいか、今年は逆にエンタメの世界で例年以上のメガヒットが生まれている。ドラマだと『半沢直樹』、漫画だと文句なく『鬼滅の刃』だろう。公開中の映画は数々の記録を塗り替え、歴史的なヒットとなりそうだ。共通するのは、逆境にめげず心正しく立ち向かっていく主人公、そして物語の熱量だ。
舞台は大正時代。炭焼き小屋で暮らす少年・炭治郎が村に出ている間に家族が鬼に襲われ、妹の禰豆子は鬼と化してしまった。禰豆子を人に戻すため、炭治郎は過酷な修行を経て鬼殺隊に入り、鬼との戦いを繰り広げていく。
「ひー……死んでればいいのに……」
読みながらなんども呟いてしまったくらい、その戦いは壮絶だ。骨折は当たり前、血管が破裂しても「集中して血をとめろ」と言われて復活(!)してまた死にかける。正直、子供たちが痛い目に遭うのはおばちゃんとしては読んでいてつらく、しかもみんないい子たちなのでいたたまれない。
そうなのだ。本作の魅力は、バトルシーンの迫力に加え、キャラクターの良さ。全キャラの中でもとびきりいい子の炭治郎は鬼を倒した後、時に涙を流し、彼らの来世での幸せを願う。少年ジャンプには珍しいキャラ設定、女の子たちが性的に描かれないのも全世代に支持された理由だと思うが、作者は女性と聞いてなるほど納得。
ヒット作には聖地がつきもの。すでに日本各地に非公認聖地が出現しているというが、コロナ禍の中でも楽しめる旅として当面人気を集めそうだ。
ともかく、読めば力が湧いていくる傑作だ。落ち込んだら鬼滅を開くといい。「『胸を張って生きろ』って煉獄さん(人気キャラ)も言ってたし!」と数々の名言が背中を押してくれる。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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