『文豪春秋』 活力くれる巨匠たちの豪胆さ

2020.10.26 00:00

ドリヤス工場著/文藝春秋刊/850円+税

 明治以降の文学者たちを題材にした小説やコミックは、長い間一貫して人気があるジャンルだ。以前本稿でもご紹介した漫画『文豪ストレイドッグス』は、作品にちなんだ異能力を備えた文豪たちがバトルアクションを繰り広げるというトンデモ設定ながら面白い作品だった。こういった“遊び方”をされるのは新選組にも通じるものがあり、その共通点は、現代に伝えられる実際のエピソードの多さと、そこから伝わってくる人間臭さだと思う。

 本書は漫画家のドリヤス工場が水木しげるのタッチで描いた文豪たちの生涯だ。文藝春秋の社内で、腐女子でもある女性社員に菊池寛(文藝春秋の社長だった)の銅像が思い出話として説明する、というスタイルである。

 登場するのは太宰治、中原中也、川端康成など30人の文豪たち。芥川賞が欲しくて欲しくて見苦しいまでにあがいた太宰治、小林秀雄との三角関係が有名な中原中也、薬物による精神不安定に苦しんだ坂口安吾、女性に対してひどく身勝手な態度を取り続けた島崎藤村などなど、個性爆発というか、読んだ印象は「文豪、ろくでもねえな」。

 薬物、酒、不倫、未成年との淫行など、今の著名人だったら一発アウトで業界から消されそうなことばっかりだが、明治・大正の日本人は個人として生きることを模索し始めたばかり。自由恋愛も創作活動もある種、前向きなものとして受け入れられていたのだと思う。女性としてはやっぱり、恋も仕事も諦めず人生を突っ走る林芙美子、与謝野晶子、樋口一葉ら女性作家たちの生きざまに感心するし、むしろ今の女性たちのほうが窮屈なんじゃないかなと思ったりもする。

 名だたる巨匠たちのダメっぷり、愛らしさになんとなく元気が出る1冊だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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