ホームバウンドという新概念
2020.08.10 08:00
コロナ災禍の東京への第2波襲来と、前倒し実施となったGoToキャンペーンの開始時期がかぶった。これ以上、人々の自粛活動が長引けば地域経済は縮む。短期的には耐え忍べても、中長期的には凄まじい負の圧力により地域全体が疲弊する。欧州連合(EU)はすでに域外から外客の渡航を禁じる措置を解除している。夏のバカンスシーズンを控え、苦境にあえぐ観光業復興を目指しているのだ。解禁対象は日本など15カ国。国内では感染再拡大を懸念したGoToキャンペーンの実施批判もあるが、このまま夏を越すと観光産業はもたない。待ったなしだ。これは日欧に限らず世界中の業界の実態だろう。
ただし、訪日市場の本格復旧は年明けまで待つしかあるまい。アウトバウンド需要も当面は見込みにくい。GoToキャンペーンは国内の旅行需要喚起のためのカンフル剤だ。すでに熊本地震ほかで政策パッケージの骨組みができているので、業界側も短期間で対応可能なスキームだ。一方、税金により最大半額もの大幅値引きが行われるので副作用も大きい。キャンペーン終了後の負のリバウンド(元の値段が割高に感じられる)が怖い。税金頼み、値引き依存の観光復興戦術にはリスクもある。それゆえ、コロナと業界が長期的に闘い続けていく上では、骨太の理念と新たなビジョンが必要不可欠となる。
浜田省吾の「ホームバウンド」(1980年)というアルバムがある。自らの音楽の原点回帰という意味を込め命名されたともいうが真の源は違う。サイモン&ガーファンクルの「ホームワード・バウンド=故郷に帰ろう」(1966年)という有名な楽曲へのオマージュとして名付けられた。英語でhomebound(家に向かう)という言葉でも語意は通じるが、ホームワード・バウンドという表現の方が耳になじむ。元々、昔の米国の荒くれの船乗りたちが、「危険に満ちた航海に出かけても無事に帰ってこれますように」という祈りを込めて腕に入れ墨した文言だ。
そう、ホームバウンド(あえて短縮形を使おう)とは、単に「故郷に向かうこと」だけを表してはいない。私はウィズコロナ時代の、そしてGoToキャンペーン開始以降の国内旅行を、このホームバウンドという新概念の呼称で呼び直したい。
ホームバウンドというこの新概念に、私は次の3つの意味合いを付与してみたい。まず、地域内の観光の魅力再発見という理念。従来、国内のどの観光地も地域内のコミュニティーの暮らしと乖離し、非日常を求める遠隔地からの旅行客をフォーカスしてきた。このホームバウンドという言葉に、まず故郷の魅力再発見の旅という意味を付与したい。
次にイン&アウトバウンド市場が消失しているいま、海外と比較すれば日本の47都道府県の全部がホームタウンである。まさに日本人が、日本中の観光資源の魅力をくまなく知るために旅する国内周遊の旅という意味を付与したい。
最後に旅人に無事に自宅に戻ってもらうために安心・安全に配慮した旅を提供するという観光業界の心意気と理念を付与したい。上述したとおり、ホームワード・バウンドという原語には、元々「無事に帰郷できますように」という祈りが込められていた。ウィズコロナの時代に、旅は何よりもウイルス禍から安全でなければならない。
アフターコロナの時代には、このホームバウンドという新概念はニッポンのおもてなしの進化を支える原動力にもなる。われわれが地域の魅力を知り、日本中の魅力を知り、世界最上級の安心・安全な防疫力を備えられたら、ニッポンの観光立国は異次元の高みへと進化できるに違いあるまい。
中村好明●日本インバウンド連合会(JIF)理事長。1963年生まれ。ドン・キホーテ(現PPIHグループ)傘下のジャパンインバウンドソリューションズ社長を経て、現在JIF理事長として官民のインバウンド振興支援に従事。ハリウッド大学大学院客員教授、全国免税店協会副会長。
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