パッケージの進化がオペレーターを救う
2020.03.30 00:00
パッケージツアーはツアーオペレーターの主軸だが、OTA、LCC、クルーズの挑戦を受けシェアは減少する宿命にあると考えられてきた。昨年、欧州最大の航空会社ライアンエアーのマイケル・オレアリ―CEOが「パッケージの時代は終わった」と宣言し、ツアーオペレーター部門を休止した。しかし、その判断は間違っているかもしれない。
米国の旅行調査会社スキフトは、昨年のモルガン・スタンレーの調査に基づいて伝統的パッケージツアーの復活を示唆している。欧州最大となる英国とドイツのツアー市場は、10年前まで旅行市場全体が増加を続けるなかシェアを減らしてきた(英国では1990年に50%以上のシェアだったが2018年に40%を割った)。しかし同調査によると、過去10年の年間販売数は横ばいから緩やかに増加に転じ、シェアも18年には若干の増加が見られる。大手各社が英国民間航空局(CAA)に申請した20年度パッケージ販売計画数も増加している。
航空便とホテルを組み合わせた伝統的ツアーオペレーターのパッケージツアーは市中店舗の販売も多いが、オンライン旅行取引の増加(19年で43%)につれて、OTAによるダイナミックパッケージの攻勢を受けてきた。ダイナミックパッケージは旅行者が自由に航空便とホテルを組み合わせられるフレキシビリティーがある。
航空機とホテルを所有しないツアーオペレーターは、販売の1年前に仕入れが必要になるリスク、デジタル販売できないことでのコスト高といったビジネスモデルの弱点があった。さらに、これまで大量販売で成功してきたビーチリゾート主体のパッケージツアーの人気が低下してきた。
最近の旅行者の志向は、都市滞在、アドベンチャー、クルーズ、健康増進、エクスペリエンス重視などに変化している。旅行期間も多様化、短期旅行が増加し(旅行回数は増加)、定型的な2週間のパッケージより、7~10日の旅行を選ぶ。これらの課題にTUIはオールインクルーシブと独占コンテンツで対応し、倒産したトーマスクックはパーソナライズした旅行を増やそうと努力した。
英国とドイツのパッケージツアー需要の回復は、市場環境の変化にツアーオペレーターが対応して成果を上げたものと考えられる。それは19年に全パッケージの50%(デロイト調査)に達したオールインクルーシブの成功を含め、業績が好調なツアーオペレーターの事例でも示される。
また伝統的パッケージツアーは、ツアーオペレーターが最初から最後まで販売商品とエクスペリエンスを管理し、高いレベルのサービスを提供できる利点も無視できない。英国ではパッケージツアー購入者にATOLによる代金弁済や帰国支援があることも好影響となるだろう。
OTAはダイナミックパッケージを単品販売の促進に活用する。エクスペディアが18年に行った販売の新方針を打ち出すキャンペーンでは、顧客がフライトを予約した後も、素材の料金を隠してパッケージ料金でホテルを追加できることにした。伝統的パッケージツアーのダイナミックパッケージとの競争は続く。ツアーオペレーターは根強いリアル店舗の支援も得ながら、消費者の志向の変化に弾力的に対応して進化しなければならない。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
カテゴリ#コラム#新着記事
-
?>
-
高騰する米大学の授業料
?>
-
非認知能力
?>
-
海の日の意味
?>
-
なにをのこすか
?>
-
分け隔てなく
?>
-
自動車文化に冷たい国
?>
-
生成AIがつくる旅の体験
?>
-
人がつくる旅行業を思う
キーワード#OTA#新着記事
週刊トラベルジャーナル最新号
アクセスランキング
Ranking
-
旧戸田家がオーベルジュに 広川町、運営を民間委託
-
政府が日本版ESTA導入へ 30年までに開始 円滑な入国や不法滞在防止に
-
着地型で攻めの値付けも集客好調 下諏訪町、成長と雇用確保へ「正当な対価」
-
いまこそ知りたい世界遺産 持続可能なツーリズムのために
-
加須市物産観光協会の求人募集要項
-
旅行業倒産、17カ月ぶりゼロ 24年は低水準 宿泊業も8月最少
-
大村湾で自転車&船の旅 4港で一緒に乗り込み可能に
-
観光のGDP寄与額、日本4位 WTTC調査 米国2兆ドルで1位維持
-
免税売上高、すでに23年超え 1~7月で過去最多に 単価上昇
-
オーバーツーリズム抑制へ新規32事業 観光庁が採択 混雑の可視化など