大型クルーズ船問題とドイツ市場

2020.03.23 00:00

 大気汚染とオーバーツーリズムの一因と批判されつつも世界のクルーズ観光は強く成長してきたが、今般の集団感染はもう1つの問題を浮き彫りにし、ブームに一時水を差すことになった。日本の一般メディアは昨年のベニスにおける大型クルーズ船問題を報じたことを除き、クルーズは訪日客増大になると大方肯定的だった。ドイツのクルーズも高い成長を記録しているが、環境の観点から批判的な記事を多く目にする。

 1899年創設のドイツ最大の自然保護組織NABUは、国や地方の気候変動やエネルギー政策に強い影響力を持つ。大型クルーズ船による大気汚染については早くから警鐘を鳴らし、2012年以来欧州クルーズ船の環境ランキングを毎年発表し、一般メディアも記事にする。ランキングとともにクルーズ船の環境問題点を指摘し、クルーズを好む消費者に環境に優しい船を選ぶよう促し、業界にとっては改善への圧力となる。

 19年のランキングでは、欧州市場で運航する89隻のクルーズ船を排ガス技術・重油の観点から検証し、エンジンとエネルギー供給関連の環境技術も新たに調査に加えた。業界には強い行動が求められるが、相変わらず化石燃料を使用する巨大新造船を毎年市場に送り出し、また多くの船は10年前の技術水準とNABUは非難し、大気汚染物質削減は今日の技術的に可能で、すべての船に排ガス装置を設置すべきであると主張している。

 ランキング1位はアイーダ・ノヴァとコスタ・スメラルダの2隻で、燃料に液化天然ガス(LNG)を使用している。3位はハパグロイドのオイローパ2など3隻。ドイツのTUIクルーズ(ロイヤル・カリビアンとTUIのジョイントベンチャー)は13位に6隻が名を連ねる。MSCやロイヤル・カリビアンの多くの船は下位にランクされている。

 そのTUIグループの年次総会が2月中旬にハノーバーで開催された。ライバルのトーマスクックの破産もあり、1月に記録的な予約があり夏の予約も前年同期比14%増加し、ヨウセンCEOもこのような好スタートは覚えがないと述べている。ホテル部門と並んで重要なクルーズ部門は高価な低硫黄燃料への切り替えが大きく響いたが、それでも10~12月期の利益は3.6%増加した。

 総会にはドイツのNGO「批判する株主の協会」が登壇し、クルーズ船の不十分な地球温暖化ガス対策およびSDGs(持続可能な開発目標)に反する乗組員待遇について批判し、役員にノーを突き付けた。この組織は環境保護、人権、平和を目指す28団体の上部組織で、大企業の年次総会に登壇し発言する。メディアはこの批判活動に注目し、内容を報じる。TUIもフェアに反対発言内容を総会報告書に載せ、ウェブ上でも公開している。

 クルーズ船会社はLNGやハイブリッドを導入したり、陸上電力の供給などさまざまな努力をしているが、毎年厳しくなる規制、硫黄含有量の低い燃料を20年から使用するなど、増大するコストとクリーンな海のイメージの間の妥協に苦慮している。ドイツのクルーズライン国際協会(CLIA)は、新型コロナウイルスの件については落ち着けば尾を引くことなく人気は回復し、ブームは続くと2月25日に語っている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。