『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』 合理的な国づくりの全貌知る

2020.03.02 00:00

小笠原弘幸著/中央公論新社刊/900円+税

 みなさんはオスマン帝国について把握というか理解しているだろうか。

 ……って、唐突で恐縮だが、私が実はよくわかっていないのだ。いや、オスマン帝国は知っている。世界史でも習ったし、ヨーロッパや中東に行けば、たいていの国でオスマン帝国時代のナントカカントカ、というのを見かける。

 だが、そのオスマン帝国がどんな帝国で、どんな偉人がいたかと聞かれたら言葉に詰まる。オスマン帝国を倒したトルコの英雄ケマル・アタチュルクの名前のほうがすぐ出てくるぐらいだ。

 でもまあ、だいたいの人はそんな感じでは。「歴代スルタン、全員参戦!」というキャッチコピーと、でっかいターバンを巻いた大勢のスルタンの肖像というインパクトの強い本書の広告を見たときに、「そういえばオスマン帝国について知らないかも」とハッとした人は私だけではないような気がする。実際、この本、めっちゃ売れてるらしい。

 本書は1299年ごろ誕生した大オスマン帝国の600年史を黎明期から滅亡まですべて解説した1冊だ。キャッチコピーどおり、スルタンも全員登場する。

 オスマン帝国といえば後継をめぐって王子たちが殺し合ったり、血生ぐさいイメージもあるが、それによって国政は確実に安定した。また異教徒や異民族を積極的に活用し、行政に取り入れ、領土を広げていった極めて合理的な国家だったことが本書を通じて理解できる。政治や統治の仕組み、その弱体化していった理由などもきちんと解説されていて、ようやくこれでオスマン帝国が理解できたような気がする。

 気がする、というのは、似たような名前のスルタンがいっぱい出てきて、たまに話を見失うからだ。でもこれを本棚に置いておけば、次にどこかで「オスマン帝国のナントカ」を見たときに理解の助けになるはず。おすすめ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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