観光MaaS ステージは実証実験へ
2020.02.10 00:00
複数の交通手段を一体的な移動サービスとして提供するMaaS(Mobility as a Service)への期待が高まっている。さまざまな事業者が乗り出し、ステージは実証実験に入った。しかし、プロジェクトが乱立し、概念や違いが理解しづらい状況も垣間見える。実証で具体的な課題も見えてきた。
MaaSが世界的に注目を集めるきっかけとなったのは、16年にフィンランドのマース・グローバルがヘルシンキの交通当局と共同でアプリ「Whim(ウィム)」の実証実験を開始したことだ。複数の交通機関を組み合わせることができ、しかも予約、乗車、決済まで一気通貫で利用できる点が画期的だった。
MaaSが注目を集める背景には、世界的な持続可能性の重視と技術革新の2つの大きな潮流がある。15年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17項目のうち「持続可能な都市」では、高齢者・障害者・子供等を含むすべての人々に安全で持続可能かつ容易に利用できる輸送システム等へのアクセスを求めており、MaaSはこれに対応した取り組みとして脚光を浴びることになった。また、技術革新により5G(次世代通信規格)やAI(人工知能)を活用した自動運転の研究、ビッグデータの活用が進んでいるのに加え、オープンデータ化、キャッシュレス化、ライドシェアを含むシェアリングエコノミーの拡大といった社会的な変化ももたらされている。これらの技術革新や社会的変化はいずれもMaaSを支える基盤に欠かせないものであり、実現への環境が急速に整い始めているともいえる。
ヘルシンキでの実証実験からわずか3年で、日本でもMaaSへの関心が急速に高まり、政府の側では、内閣官房の日本経済再生本部、IT戦略本部、国土交通省、経済産業省などが、それぞれの観点から積極的に関与している。
各省で実現へ向けた研究と検討
まず18年6月に閣議決定された未来投資戦略で、新たな基幹プロジェクトとして「次世代モビリティ・システムの構築プロジェクト」が掲げられ、MaaS実現へ向けた検討が加速した。同年10月には産官協議会が設置され、日本経済再生本部が中心となって、検討が行われた。
国交省はMaaSの前提となる公共交通機関のデータのオープン化を見据えて、17年3月に「公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会」を設置し、19年5月までに8回にわたり検討を重ねてきた。また内閣に設置されたIT戦略本部も、昨年開催した第1回オープンデータ官民ラウンドテーブルで、移動・観光分野のオープンデータについて取り上げている。
オープンデータ推進の検討とは別に、国交省では日本版MaaSの将来像などを検討する目的で18年10月から「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」を開催。そこでの議論を踏まえ、MaaS関連データ検討会を立ち上げ、データの連携に関する議論も行っている。今年3月までにはガイドラインの最終取りまとめを行う予定だ。
MaaS実現には経済産業省も期待を寄せる。18年6月に立ち上げた「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」での議論を踏まえ、IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスを広義のMaaSとして位置づけ、社会実装と経済活性化について、国交省と共同で取り組む方針などを固めた。これを受けて両省は19年6月に新プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を立ち上げ、社会実装にチャレンジする地域・事業を募集し、8月には北海道から沖縄まで、28の支援対象地域・事業を選定した。
この取り組みと並行して、国交省は新たなモビリティサービスとしてその実証実験を支援しモデル構築を推進する対象事業を公募。19年6月、応募51事業の中から19事業を選定した。
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