『ブーヴィエの世界』 外国人を日本に誘う筆致のみずみずしさ
2020.01.20 00:00

「ニコラ・ブーヴィエは読んだ?」
宿に滞在していたスイス人の老夫婦から聞かれた。2年前に来たリピーターで、退職を機にあらためて来日した日本ファンである。未読だと言うと、「私たち、ずっと以前に彼の作品を読んで、いつか日本に行きたいと思っていたの。スイスではとても有名なのよ」。
へえ、というわけで、さっそくアマゾンで取り寄せてみましたよ。「西のほう、新宿の空には霞のような光がたなびいている。荒木町はひっそりしている。銭湯からお湯をかける音が聞こえてくる。娘が二人洗いざらしの髪をなでつけながら出てくる。板塀の破れたポスターに目が行く」(『日本年代記』中の「壁の劇場」より)
ニコラ・ブーヴィエは1929年スイスのジュネーブ生まれ。53年に1年半かけてユーゴスラビアやトルコ、パキスタンなどを旅した後、日本にも滞在。63年に自費出版した旅の記録『世界の使い方』は80年代になってヨーロッパで大評判となり、率直な目線と詩情豊かな表現に満ちた作品群は旅人のバイブルとなる。日本には1年あまり滞在した後、64年に再来日。京都・大徳寺の瑞雲軒に暮らし、その後も北海道や島々を旅したり、大阪万博時にも来日するなど、深い関わりがある(いままで知らなくて申し訳ない……)。
本書は彼の代表的な文章をまとめた作品集だ。日本紀行『日本年代記』(日本では『日本の原像を求めて』として訳書が出版された)から、東京の荒木町、北海道、東北などの紀行文も収録されている。戦後から60年代にかけての日本の風景がみずみずしい筆致で描き出され、いま読んでも新鮮だ。
残念ながら2007年に出版された本書は絶版となったが、在庫は入手可能。また、代表作『世界の使い方』(英治出版)は現在も流通している。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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