ICUの山本智巳学長特別補佐が語る「グローバルで活躍するために」
2019.08.05 20:25
外資系グローバル企業での豊富なビジネス経験とマネジメント経験を持つ国際基督教大学(ICU)の山本智巳氏。その経験を生かし、現在、グローバル人材の育成に取り組んでいる。世界に通用する能力はどう養うのか。軽井沢で7月5~6日に開催されたトラベル懇話会の夏期セミナーで語った。
IBMやベルリッツでの経験からグローバルタレントの重要性を痛感し、世界で通用する人材の育成に取り組むようになりました。現在はICUでGLS(Global Leadership Studies)の責任者として5年目を迎えたところです。私は外資系企業や語学学校の代表を務めましたが、とりわけ英語が得意なわけでも留学経験があるわけでもなく、MBAも持っていません。しかし、ビジネスの世界での実践を通じて本当のグローバルとは何かは把握してきました。現在携わっているGLSは、企業から参加しているビジネスマンを対象にしたグローバル人材養成の研修です。
さて、ここからが本題です。まずグローバルとは何でしょう。企業オペレーションの形態で整理すると、本社があって海外事業は海外支店が行います。生産拠点や物流拠点は海外にもある。これはインターナショナルな企業のあり方で70~80年代に多かった形態です。この展開が進むと、各国・地域で完結する事業を展開する多国籍企業になります。これがマルチナショナルです。
ではグローバル企業とは何か。基本的に国境、地域で物事を考えません。世界中のビジネスを1つの事業ラインでオペレーションする。現在、IBMをはじめ米国の大手企業にはこの形態を指向しているケースが多いです。グローバル市場で勝ち抜くにはこうした形が必要と考えるからです。もちろん、それが最適解かどうかはわかりません。
しかし、世界中で1つのオペレーションを展開するには、収益管理から生産管理、人事管理、各国の税制や規制への対応といった極めて複雑な問題をグローバルで解決し、かつ急激に変化する環境に常に対応していかねばなりません。こういう時代環境を最近ではVUCA(ブーカ)と表現します。Volatility(不安定性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(あいまいさ)の意味ですが、そういう環境で力を発揮できるのがグローバル人材ということもできます。
つまり、グローバル時代には、整然としたアプローチでは物事を動かすことはできず、ベースとしてVUCAへの対応力が求められるということです。
積極性が何より重要
グローバルという視点で日本人の能力は決して劣っていません。ある調査で日本人の技術者の能力を世界的な平均値と比較した結果、ほとんどの項目で日本人は優秀なスコアを獲得し、テクノロジーの知識やリサーチ力では最高レベルでした。ところが明らかに劣っていたのがリーダーシップです。日本の代表的企業の研究開発部門なども同じ問題を抱えます。関係者とコミュニケーションし、研究開発を進め、商品化につなげ、ビジネスプランやファイナンスにも目配りする。そういうリーダーシップやコミュニケーションの力に欠ける。だから技術は優れていても他国企業に負けてしまいます。
ベルリッツ時代に日本人の欠点を外国人社員に尋ねたら、「周りの顔色を見て発言する」「議論をしたがらないように見える」と言われたことがあります。これは英語スキルの問題ではありません。英語を話す人口は世界で17億人と言われ、ネイティブは20%から30%。残り7~8割はノンネイティブで、各国でナショナライズされた〇〇英語を話しているのです。英語はコミュニケーションの道具。正しい文法であることより、通じることが重要です。
カーネギーメロン大学が米大統領および大統領候補のスピーチを分析した調査結果が興味深く、トランプ大統領は6年生並みとの判定でした。しかし、わかりやすくノンネイティブも理解しやすいともいえます。いずれにしろ、義務教育レベルの英語力で十分なのです。とにかく話すこと、積極的に発言する姿勢の方がはるかに大切です。
日本人はセミナーや講義、会議で脇や後方に座ることが多い。しかし、私は最前列の真ん中に座り、とにかく質問しろと勧めます。「あいつは参加している。いつもの日本人と違う」と認めてもらえるからです。そうでないと「参加意識がない」と判断されてしまいます。
揉めるチームが結果出す
プレゼンテーションも気を付けたい点があります。ひとつはコミュニケーションには非音声が重要な意味を持ち、ジェスチャーやアイコンタクトで説得力が変わってくる点です。ここは訓練で上達できます。また、プレゼンテーションの資料として日本語版の複雑な資料の翻訳を使ったら、間違いなく理解してもらえず失敗します。グローバルスタイルと丸の内スタイルは別物。スタイルを2つ持ってスイッチする意識が必要です。
クロスカルチャーを理解し、互いの異質を知る姿勢も大切です。日本企業の海外M&Aの成功率は非常に低いといわれます。うまくいかない理由のひとつは、日本企業が同質文化に慣れてしまっているため、丁寧な説明をしないハイコンテキストの文化であるうえにインダイレクト、つまりコミュニケーションを欠くからです。グローバルで成功するには説明をいとわないローコンテキストとダイレクトなコミュニケーションが重要です。揉めることも恐れずに説明しコミュニケーションし、乗り越えたところにイノベーションは生まれます。
GLSの合宿では、参加者を複数のチームに分けて課題を与えてトレーニングします。最初に揉めているチームの方が最終的にいい結果を出すケースが多々あります。揉めずに表面上まとまっているチームは、そこそこの結果止まり。揉めた結果としてクロスカルチャーの価値を獲得したチームの方が、揉めずにモノカルチャーで終わったチームより優れているわけです。
やまもと・さとみ●慶応義塾大学経済学部卒業後、1977年日本IBM入社。99年から米国IBM本社勤務。帰国後は日本IBMの経営企画の責任者を経て、2007年執行役員就任。ベルリッツ・ジャパン代表取締役を務めた後、個人コンサルタントとして企業改革、組織開発、人材育成等の支援活動に従事。15年から現職。GLSゼネラルマネージャー兼務。
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