航空券単品購入の旅客を保護するか、英国の議論から
2019.07.01 08:00

17年10月、英国5位のモナーク航空が倒産して、外国で立ち往生した旅客救済のために政府は多数のチャーター機を手配して8万5000人を帰国させた。旅客の大部分は、クレジットカードなどで救済された一部を除き政府の全額費用負担で救済された。費用の納税者負担も問題だが、旅行業界が怒っているのは、航空券単品購入の旅客が公的に保護されることがATOLライセンスを愚弄したということになるからだ。ATOL旅行会社からパッケージを購入しなくても旅行者は保護されるべきのか(パッケージツアーの定義は最近のEU指令で拡大されている)。
この課題を検討してきた英国政府は5月に「航空会社倒産調査報告」を発表し、航空会社破綻時の旅行者帰国費用の財源として、全フライトで1人最大50ペンスの課金を提案した。これは英国旅行業協会(ABTA)が要求したもので、航空旅客に保護制度を新設する提案だ。旅行業界は歓迎するが、航空業界は(少額とはいえ)課金に強く反対し次のように反論する。
英国の航空会社13社を代表する委員会は、調査報告が航空会社倒産のリスクを過大に評価しており、大多数の旅客の利益にならない。欧州委員会の推計では、航空会社の倒産で被害を受けるのは旅客のわずか0.07%に過ぎない。そのうち、帰国のための組織的な支援を必要とするのは12%だけという。さらに徴収費用が提案よりはるかに大きくなりそうだと警告する。英国人はすでに航空旅客税(APD)として年30億ポンドを負担しており、航空会社間で約束されている自発的な救済運賃も機能していると主張する。
航空会社の倒産が相次いでいる。燃費高騰と供給過剰による価格競争が原因だ。英国では今年、地域航空のフライビーエムアイなど2社が破綻。欧州では昨年、キプロスのコバルトエアーやデンマークとラトビアを拠点とするプリメーラ・エアが運航を停止、今年はベルリンのゲルマニア航空、アイスランドのWOWエアが事業停止した。
このような状況が続けば、航空旅客の被害は避けられない。各国政府には海外リゾートに置き去りにされて帰国できない自国民を救済する義務があるのかもしれない。そうだとすれば、パッケージ旅行販売業者だけを規制するのは公平とはいえない。弁済資金を含むATOLライセンスのコストは旅行会社の負担だが、結局は旅行代金に転嫁される。
一方、単品購入の航空旅客に保護制度が成立すれば、帰国便に限定されるにしてもほぼ全旅行者がカバーされることになるから、現行制度との整合性が必要になる。もっともATOL制度は市場の参入規制でもあり、新制度が実現しても旅行業に有利とは限らない。
旅客の完全帰国まで運航
課金とは別に調査報告は政府負担を避けるためにCAAの権限を強化し、経営破綻した航空会社に旅客の完全帰国まで運航を認めるよう提案する。それは航空会社の負債の増加になり、破産法の改正も必要だ。破綻した航空会社の航空機が飛行禁止になる理由は、債権者も権限があり、サプライヤーも外国の空港で航空機の差し止めができるからだ。運輸大臣はこれらの提案を検討し、早急に必要な制度改革を行うと約束した。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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