ユニバーサルツーリズム、分け隔てない旅行の仕組みづくりへ

2019.07.01 08:00

旅のユニバーサルデザインへの取り組みは進む (C)iStock.com/mikanaka

東京五輪開催に向け共生社会実現への機運が高まるなか、観光業界でも、障害のある人々を一般の旅行で受け入れる枠組みづくりが進んでいる。ユニバーサルツーリズムは、スムーズに旅行できるインフラ整備から、誰もが一緒に旅行できる仕組みづくりにステージが移ってきたといえそうだ。

 開催には賛否あった東京オリンピック・パラリンピックだが、プラスの面に注目してみれば、確実に効果を上げているのが共生社会実現に向けた機運の高まりだろう。16年4月の障害者差別解消法の施行もあり、観光業界では旅行会社や自治体の新たな取り組みが見られる。

 クラブツーリズムは17年9月から、これまでバリアフリー専用ツアー「杖・車いすで楽しむ旅」に限定していた自社独自のトラベルサポーター制度の適用を一般の募集型企画旅行に拡大した。介助を必要とする人々がサポーターの力を借り、健常者と同じ旅行に参加できるようにする試みだ。背景には、障害者差別解消法施行など社会的な変化や利用者のニーズの多様化がある。加えて、実現できた理由を「経験値の高いトラベルサポーターが育ってきた」と語るのは、近畿日本ツーリスト首都圏団体旅行部の伴流高志営業課長代理。KNT-CTホールディングスのグループ会社におけるユニバーサルツーリズム推進を担う一人だ。

 クラツーがバリアフリーの旅をスタートしたのは1997年。2015年には、それまでのバリアフリー旅行センターを拡充させる形でユニバーサルデザイン旅行センターを開設し、脚力の落ちた高齢者なども対象にした長い距離を歩かない「ゆったり旅」と併せて販売を続けてきた。こうした過程で2000年に生まれたのが、介護資格を有するボランティアサポートスタッフが障害のある人や高齢者に同行し、介助やサポートをしながら共に旅を楽しむトラベルサポーター制度だ。

 他社のサポート制度と一線を画しているのは、利用者の経済的負担が少ないことにある。一般的には、利用者がサポーター分の旅費と日当を負担するが、同社の制度では、旅行形態やサポートの依頼内容に応じてサポーター自身も旅行代金を負担する。この制度の成立には、顧客自身が添乗員を務めるフェローフレンドリースタッフなど、もとより顧客参画を進めてきたクラツーの姿勢によるところが大きい。以降、同社には常時200~400人のトラベルサポーターが登録し、費用面のソリューションとしても機能している。

グループ全体で体制再構築

 物理的にも心理的にもバリアフリーではない環境が増える一般のツアーでは経験値が求められる。ツアーでは、集合時に添乗員が全参加者にサポーターの存在について説明し、参加者の理解を得る工夫をしている。参加したサポーターからは、「お客さま同士を結びつける役割の大変さ」を訴える声がある一方、同じツアーに参加した健常者からマイナス評価の声はないという。「ツアーに障害のある人がいるだけでクレームがあった時代もあったが、いまは違う。これも時代の変化」と伴流課長代理。利用の流れは、一般のツアーに問い合わせをしてきた人にサポーターの存在を案内して実現するケースがほとんどだそうだ。

 クラツーでは、こうした動きの一方で、18年9月にこれまで続けてきたバリアフリー商品の販売を一時休止した。かつてバリアフリー旅行の商品価値は主に物理的な課題を解決することだった。インターネットも普及していなかった当時、個人で情報を集めるのは困難で旅行会社に頼らざるを得ない状況もあった。しかし、2000年の交通バリアフリー法施行などで特に移動と宿泊にかかる環境が整備され、情報収集も容易になるなか、顧客の選択肢が増え、個人旅行も可能になってきている。「これまで添乗員付きの商品にこだわって品質を高めてきたが、今後20年を見据えたとき、いま一度ツアーのあり方やブランドコンセプトを考え直す必要があると判断した」(伴流課長代理)

【続きは週刊トラベルジャーナル19年7月1日号で】