明大の市川宏雄名誉教授が語る「東京MICEの展望」

2019.04.26 19:00

東京MICEの可能性を語る市川名誉教授

東京都と東京観光財団は、東京都MICEシンポジウムを開催し、明治大学の市川宏雄名誉教授が基調講演で、 世界の都市との比較における都のMICEの魅力や誘致策、今後持つべき視点を語った。

 世界の主要都市の中で、東京はどのような位置づけなのでしょうか。何を強みとし、何を改善すべ きなのでしょうか。東京都のMICE戦略を考える前段階として、森記念財団の都市戦略研究所が毎 年10月に発表する世界の都市総合力ランキング (GPCI)を見てみましょう。

 ランキングは主要44都市を対象に、経済、交通・ アクセス、環境、居住、文化・交流、研究・開発 の6分野の計70指標で評価し、都市の総合力を算 定しています。08年に世界の都市総合力をランキングするアジア初の取り組みとして始まり、現在は 世界的に高い評価を受けています。

ロンドンがトップ

 昨年10月に発表したランキングは、トップがロンドン、次いでニューヨーク、東京は3位につけました。 その後にパリ、シンガポールが続いています。上位 4都市はいわゆる世界都市で、世界をさまざまな面で牽引する都市です。

 アムステルダムやソウル、ベルリン、香港などといった欧州やアジアの主要都市が上位を占めます。過去10年間の推移を見ると、これまでニューヨークがずっとトップでしたが、入れ替わったのがロンドンオリンピック・パラリンピックが開催された12年でした。オリンピック開催が決まった05年以降、ロンドンはさまざまな面で開発が進み、総合力を順調に伸ばしてきました。

 一方、ニューヨークは数値的には横ばいか下がっている状況が続いており、最近ではロンドンが圧倒的にトップに立っている状況です。東京は長年パリを抜けていませんでしたが、13年に東京オリンピック・パラリンピック招致が決まった後、都市力を上げ始めました。パリはテロリスクの高まりなどで下降傾向ということもあって、とうとう16年に順位が入れ替わりました。17年ランキングでは、東京は実はニューヨークに急接近しました。

東京の評価項目は

 もしかすると18年以降には逆転するのではないかと思われていましたが、規制改革などが予想以上に進まなかったこともあり、逆に差は広がってしまいました。現状を見るに、今後も抜くことは難しい状況だろうと思います。また、24年にオリンピック・パラリンピック開催が決まっているパリが急伸する可能性もあり、上位都市の動向は目を離せない情勢です。

 上位3都市の最近の上昇要因を見ると、ロンドンはオリンピックを契機にホテルが増えるなど、産業構造が上向きになりました。ニューヨークはトランプ大統領の登場で、法人税を下げたことが好影響し、スタートアップ環境やワークプレイス充実度が高く評価されました。

 東京はトップ2都市ほど伸びはありませんでしたが、働き方改革で勤労時間が減ったことや、緩やかなGDP成長やワークプレイス充実度が上がったことが総合力を引き上げました。6分野を比べると、東京は経済3位、研究・開発2位、居住9位、環境29位となっています。

食の魅力

 MICEに直接関係する文化・交流は、10年前には7〜 8位でしたが、4位に上昇し、交通・アクセスはかなり改善され、5位に位置づけました。トップ2都市と比較した強みを見ると、公共交通の充実・正確さや通勤・通学の利便性、渋滞の少なさといった交通・アクセス面が挙げられますが、なんといっても食事の魅力です。

 ミシュランガイド認定が世界最大となっている点などが評価されました。一方、歴史伝統の接触機会、外国人居住の少なさ、ハイクラスホテルの客室数が弱い部分といえます。文化・交流ではロンドンが16指標のうち13指標でトップ5入りし、圧倒的な強さを誇っています。

 国際コンベンションの開催件数はトップ4都市ではパリの約400件に続いて東京は200件超ですが、シンガポール約1000件、ソウル約550件には及びません。東京は文化イベントの開催件数でも14番目でそれほど高くありません。トップ2都市に劣っている点が文化・交流であることを踏まえれば、MICE分野は都市の総合力を底上げするといった観点で見ても、非常に重要といえます。交通・アクセスは国内・国際線でかなり伸びています。

空港発着枠拡大や観光立国推進に期待

 20年の羽田空港の発着枠拡大が期待されますが、成田空港の第3滑走路の新設、羽田の発着枠拡大にとどまらないさらなる増便が必要でしょう。国際空港へのアクセスではロンドンはパディントン・エクスプレスが走っているので都心までの時間距離が短いのですが、東京は28年ごろに羽田空港と東京駅が直結することで、所要時間は18分となり、世界で都心にもっとも近い空港を持つ都市になるとになります。

 今後期待されるのは、訪日客誘致といった観光立国の推進や、東京オリンピック・パラリンピックの開催です。都市力アップには、これらのレガシーをいかに生かすかが今後のポイントといえそうです。東京の都心に目を移すと、72都市・東京23区を対象とした日本の都市特性評価(JPC)が参考になります。

 GPCIと同じ6分野のうち、文化・交流で京都市が390.0スコアとダントツで、大阪市276.7、福岡市249.0と続きます。7位が金沢市195.5、8位が仙台市160.5ですが、23区では港区174.8、千代田173.0、新宿165.7、渋谷140.2、中央139.8の順で上位を占めました。

港、千代田、新宿が上位

 港区は、観光ハード資源や受け入れ環境の評価が23区で最も高く、高級宿泊施設の客室数、観光案内所・病院の多言語対応の充実がプラス要因でした。観光都市としての資源や機能をふんだんに持っていることがわかります。千代田区は観光ソフト資源、受け入れ環境、交流実績が高く、観光地としての高い魅力を有しています。

 新宿区が評価されたのは、交流実績や受け入れ環境が充実していたからです。都と東京観光財団が指定する東京ビジネスイベンツ先進エリアで、MICE誘致の取り組みが本格化しています。大手町・丸の内・有楽町(大丸有)、六本木、臨海副都心、日本橋・八重洲、品川・田町・芝・高輪・白金・港南、八王子の6エリアが選ばれ、これに立川も追加されましたが、主要な施設などの情報や特徴が公表されています。

10年後の姿は

 海外の都市がMICE誘致に積極的に取り組むなか、これらのエリア、東京のMICE戦略にはどのようなことが求められるのか。それらを考える際に、10年後の東京の都市の姿がヒントなるでしょう。

 現在、わかっている大型施設の整備計画だけでも、ハード面でがらっと変わります。大丸有エリアは、 すでに三菱一号館美術館が復活し、東京駅は建て替えが終わって2階から3階になり、駅前の広場ができあがっています。27年には日本橋口前に、あべのハルカス(大阪市)を抜いて日本一高い超高層ビルが建設され、巨大広場も完成します。八重洲口前にもビルがどんどん建ち、巨大バスターミナルが地下につくられます。

 虎ノ門・六本木では虎ノ門ヒルズの周りに3棟のビルが整備され始めていますが、20年に開業する虎ノ門ヒルズ駅に直結するステーションタワーも23年にできます。麻布台では開発が始まり、国際的な居住環境が整備されます。渋谷スクランブル交差点の周辺は6棟のビルが建設され、19年に開業される渋谷スクランブルスクエアには巨大な展望台が屋上にできます。

 渋谷はすでに観光客が多いですが、これからますます加速させる状況が起きるでしょう。品川駅は車両基地跡地に建物4棟の建設が発表され、高輪ゲートウェイ駅開業で周辺環境は大きく変わります。

MICEに何が必要なのか

 10年後の姿を念頭に置きつつ、MICE誘致には何が必要か考えてみましょう。まず、まちそのものの魅力はかなり重要です。国際会議で訪れたまちを楽しむ、または同行した家族がどこで遊ぶといった点も重要視されます。東京にはその素地があり、食事や買い物の魅力が充実しています。

 どのように人とまちを絡めるのか、交通アクセスの充実も含めて食・遊・エクスカーションをいかに対外的に打ち出せるかが、誘致のポイントです。最終的には、ちょっとした違いや工夫で大きく結果は異なってくるのだろうと思っています。

 MICEの効果をしっかり実証することも求められます。消費誘発、経済波及、税収などの効果は具体的にどれくらいか。国際競争力が向上し、付帯的に新産業イノベーションが創出されるのか。MICEの有用性を対外的に認知してもらうことが必要です。そうすることで、財政的な担保や支援を取り付けることができるのです。

東京全域でデザインするか

 東京のいいところはエリアごとが競争して誘致に取り組んでいる点です。現状はエリアごとに切磋琢磨し、結果的に都市競争力は上がっている状況です。競争のいい面が出ていますが、今後キャパシティーが上がっていくと、あるエリアの都市力が上がると、一方が落ち込んでいく悪い競争に陥る可能性があります。

 今度10年間、大型施設が多く供給され、いかにMICEを入れ込むのかという課題に直面します。そこでは、東京が世界に勝ち抜くにはトータルとして東京に何ができるのかという視点が求められます。

 各エリアが独自の魅力を訴求し、エリア特性を踏まえたターゲティングをさらに厳密に行う必要性がこれまで以上に出てくるのです。その一方、エリア間での連携のほか、共有できる資源は分け合うといった役割分担をすることが求められます。

 六本木ではそのような動きが出ているようですが、連携の輪をもっと広げていかなければなりません。東京をトータルなMICE開催地に見立てた視点は、5年後、10年後に本格的に考えなければならない時期が訪れるでしょう。そのときには東京MICE、あるいは東京という都市が成功するかの大きな分岐点に差し掛かるのだろうと考えて います。

いちかわ・ひろお●都市政策の専門家で、東京都の都市政策に25年以上関わる。森記念財団都市戦略研究所の業務担当理事として世界の都市総合力ランキング(GPCI)策定の中心的役割を担うなど世界の都市政策に詳しい。大都市政策研究機構理事長、日本危機管理士機構理事長。

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