着地型観光に追い風 無償運送規制緩和がもたらす変化

2024.05.27 00:00

iStock.com/Maca and Naca

国土交通省は3月1日、宿泊施設や通訳ガイドなどが自家用車を使って顧客を送迎できる通達を発出した。地方での2次交通の確保が旅行者誘致の課題となるなか、顧客運送の規制緩和は来訪促進の追い風となる。通達の全容を捉え、地域と事業者の商機を考える。

 国土交通省が物流・自動車局旅客課長名で発出した通達は、「道路運送法における許可または登録を要しない運送に関するガイドライン」を詳しく説明する内容となっている。ガイドラインは、運送事業のプロであるバスやタクシー会社、福祉輸送やNPO等の関係者、関係各省庁と国土交通省が、約半年間にわたる勉強会で交わした議論を基にまとめられたものだ。

 これまで国交省は、宿泊施設・エコツアー等によるツアー参加者の送迎のための輸送や、通訳案内士による自家用車を用いた通訳案内行為、自然体験プログラムの提供における送迎等についての通達を発出。その時々の質問に対して回答を示してきたが、今回のガイドラインはそれらをもう一度整理し直し、なおかつ現状を踏まえて必要な内容を加えてまとめている。過去の複数の通達の存在が混乱を招きかねず、1つの通達にまとめる必要があったからだ。従って、新たな通達発出とともに、許可・登録を要しない運送に係る過去の9件の通達はすべて廃止された。

 今回のガイドラインはこれまでの同種の通達と構成が大きく異なる。これまでは許可・登録を要しない運送の解釈について、ある類型に基づき複数の具体例を示し、ただし書きで補足する形だった。しかし、「具体例として挙げていない形や具体例そのままでない形は不可」という解釈につながってしまっている面が否めない。この点については国交省も「利用者や実施者はもとより運輸局・運輸支局にも若干分かりにくくなっている」と認めており、あらためて許可・登録を要しない運送についての考え方を整理した。

 このためガイドラインは具体例を挙げる前に、より重要な「考え方」をしっかり説明する形を取っている。またガイドライン以外に、個別具体的なケースを取り上げて説明を加える事例集やQ&Aの作成については「今のところ考えていない」(物流・自動車局旅客課)としている。

 ガイドラインが重視する考え方は2つだ。1つ目は、無償の運送行為は誰でも自由に行える点。ガイドラインの前文でも「運用に当たっては、無償運送行為が本来は自由に行えるものであり、一般の方々が許可または登録をせずに行える運送行為を安心して行えるよう記述したものであることを理解しておく必要がある」と説明している。

 2つ目は、無償運送を活用していかなければ社会が成り立たない段階に来ているという認識だ。前文では、公共交通機関の活用を第1に考えていくことが重要としつつも、十分に確保できない場合には、自家用有償旅客運送制度や無償運送を組み合わせて移動手段を確保する必要性があると指摘。そのうえで「高齢社会や共働きの進展、地域へのさまざまな観光客の来訪などを考慮すると、地域での互助活動・ボランティア活動による運送、自家用の自動車による運送等にも一定の役割を持たせないと社会・経済活動の維持が困難になることも現実である」としている。

 今回のガイドラインは、無償運送が本来自由であることを前面に打ち出したうえで無償の範囲を拡大し、無償運送の活用を積極的に促進する内容だ。見方によっては、道路運送法の実質的な規制緩和とも受け取ることができる。

有償と無償の線引きも新たに

 有償運送は許可・登録が必要だが、無償運送は自由に行える。ではその線引きはどうなるのか。

 有償とは「運送サービスの提供に対する反対給付として財物を収受すること」であり、その有無が許可または登録の要否の判断基準だ。では反対給付に当たらないものとは何か。ガイドラインでは、社会通念上常識的な範囲での謝礼は運送の対価ではないとする。例えば交通手段を持たない高齢者を買い物に同乗させるといった場合に、高齢者からお礼の気持ちを示す金銭謝礼を受け取っても運送の対価とは見なさない。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年5月27日号で】

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