負のサイクル
2023.12.11 08:00
京都や沖縄などへの不動産投資が活発だ。インバウンド市場の可能性に加え、円安基調が続き、資金調達しやすいという要因もあるだろう。ただ、少しやり過ぎではという思いもある。東アジアの生産人口減少が始まり経済成長が一段落してGDPの伸びが止まり、インバウンドもいずれ天井を迎え成熟市場となるからだ。まだ世界人口を伸ばすインドやアフリカ市場があるという声もあるかもしれない。しかし、経済学のグラビティモデルに則れば、近隣国の経済停滞はその効果を相殺する。
むしろ逆に今後のポストインバウンドの時代には、ブランド地域ではなく不動産投資の対象外だった過疎地や辺境地が注目されるようになるだろう。誰がその市場を創るのかといえば、60代以上のシニア層による投資や寄付である。過疎地域への旅の目的は、その地の一時住民となり森や里山、里海を守り、社会と個人のウェルビーイングを追求するために滞在することだ。かつて正三角形ピラミッド時代に森を切り開き、観光地で食べ散らかし大量消費したのとは真逆の市場だ。
日本は世界に先駆け、43年に70歳を頂点とする逆三角形人口ピラミッドが完成する。日本経済のアキレス腱は個人金融資産の60%超を60歳以上が保有することだ。額にして1000兆円超。すなわち1970年代から積み上げてきた国債発行高がそのまま高齢者のタンス預金となっている点だ。世界一の長寿国でその金融資産がその子供へと相続される時、子供はすでに60代。そしてまた預金となるのであれば下の世代に資産が永遠に承継されず、若年層の借金漬けが続くうえ、国の借金も積み上がり、国力の低下につながっていく。
しかし国民はこの負のサイクルにいずれ気づき、高齢者の金融資産は社会を再構築するための寄付や投資へと向くと思う。その投資先こそ森や海を守り続ける一方で人口流出が続く過疎地域である。
2043年には祖父母から孫への学費贈与で成り立つ企業経営型の全寮制学校が過疎地域に増えるだろう。過疎地域に人材を還流し一次産業を再生する会員制のソーシャルロッジも増えていく。行政機能の民間委託も増える。熊や猪を森に戻し、水源や食糧を確保するために、国民全体での地方再生の必要性が増し、リジェネラティブトラベル(地域再生の旅)がその頃の主流の旅になっていると思う。
日本人の知恵を総動員して地方創生を成し遂げていくことがこれから20年の国民のミッションだ。今年最多人口が初めて50歳まで24歳下がった。そしていまの50歳が70歳になり逆三角形が完成するまであと20年。この間に金融資産の老々相続を断ち切り、日本社会の再構築ができなければ日本は三流国家として凋落していく。
過疎地域にソーシャルインパクトを与える小さなロッジは仮想通貨のNFTで資金調達し、宿泊という現物で還元していく。その頃、宿泊業はタンス預金を社会へ還元する一翼を担っているだろう。
井門隆夫●國學院大學観光まちづくり学部教授。旅行会社と観光シンクタンクを経て、旅館業のイノベーションを支援する井門観光研究所を設立。関西国際大学、高崎経済大学地域政策学部を経て22年4月から現職。将来、旅館業を承継・起業したい人材の育成も行っている。
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