セルフレジにチップを払うか

2023.11.06 00:00

 日本の旅館・ホテルで部屋に備え付けの冷蔵庫内の飲み物代にサービス料が付加されるのはおなじみだが、米国では対面でサービスを受けない時にチップを支払うべきかという疑問が生じているとウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。

 店員との交流がゼロでもチップを払うかはモラル上の難問だ。全米の空港、スタジアム、クッキー店、カフェなど至る所のセルフレジ画面に20%のチップを催促する表示が急増し消費者をいら立たせる。企業経営者は催促自動化でチップが大幅に増え、従業員の報酬アップになると指摘する。しかし無人セルフレジでのチップの催促はチップ自体に疑問を抱く人の増加を招いている。企業はセルフレジで人件費を削減している。何のためのチップか、誰がもらうのか、という疑問である。

 企業側はチップは良い仕事への自由意思による感謝だとする。チップの研究者や労働者擁護団体は、チップ率が徐々に上昇する仕組み「チップ・クリープ」についても雇用主が自らは賃金を上げず消費者にその支払い義務を転嫁する手段だと主張。「企業はこの仕組みを利用している。微々たる費用で収入を増やせるとしたら、誰でもそうしたいと思うだろう」とチップ研究者は話す。

 裏付ける現象もある。決済サービスソフトのスクエアはiPadによる販売管理システムの多くに搭載され、同ソフトで22年10~12月に処理されたチップはフルサービスの飲食店で前年同期比17%増、ファストフード飲食店で16%増だった。

 空港のセルフレジで商品を購入する場合、すでに高い値段に追加で1~2ドル要求されるのはとんでもないと感じる旅行者もいる。空港の土産店で誰とも視線を合わせずペットボトルの水を購入しセルフレジ画面で10~20%を上乗せする選択肢を目にした乗客は、催促自体が脅迫だとしてチップを払わなかった。土産店ではセルフレジのチップはそのシフトで働く従業員の共有資金になるという。

 クッキー販売チェーン・クランブルの店舗では、セルフレジの画面下部にラベルがある。「われわれがあなたを笑顔にしたら、どうかチップをご検討ください」。ある大学生は1個約5ドルのクッキーを購入する際、提案されたチップを払った。店員と接触したのは、脇で待つように言われた時と注文したクッキーを受け取った時だけである。

 大学生は飲食店での接客アルバイト経験がありチップの重要性を理解しているため、チップを払わなければ罪悪感を味わっていただろうという。その一方で手助けする店員が誰もいないなら、チップを要求する選択肢自体をなくすべきと感じるとしている。クランブルの広報担当はチップは法に従いクッキーを焼くスタッフに分配するという。

 多くの企業は長年チップの分配方法を巡る訴訟に直面してきた。疑問もある。チップ研究者の一部は機械に支払われたチップが従業員に届かない可能性があると指摘する。法に定める労働者保護が機械には拡大適用されないからだ。セルフレジのチップ催促画面に対する違和感はまだ続く。

平尾政彦●1969年京都大学文学部卒業後、JTB入社。本社部門、ニューヨーク、高松、オーストラリアなどを経て2008年にJTB情報開発(JMC)を退職。09~14年に四国ツーリズム創造機構事業推進本部長を務めた。

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