まずははじめて
2023.10.16 08:00
約3年半ぶりに米国を訪れた。サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク。特に東海岸は5年ぶりだ。10年ひと昔、その3分の1や半分も過ぎればいろいろ変わっていることだろうと身構えながら機上の人となった。
入国はサンフランシスコから。自動化されてはいなかったが入国のスタンプは日本同様省略となり、スムーズに通過できた。荷物を取るまで30分とかからなかっただろうか。到着階からタクシー乗り場に出るとタクシーの姿がない。聞くと皆ライドシェアにシフトしたという。乗り場は1つ上の出発階。ウーバーのアプリで呼ぶと出発客を降ろした車がそのまま配車されるので待ち時間ゼロ。メールで届いた領収書を見ると、アクセシビリティ手数料に国際空港使用料など、さまざまな追加料金がチャージされている。行政が薄く課金しているようだ。ウーバーは米国公共交通協会(APTA)にも加盟していて、すでに公共交通の一端を担う。
一方ニューヨークではイエローキャブが健在だった。混雑時に距離が短い所はライドシェアの料金が高騰する傾向があり、そうした隙間を埋めているようだ。イエローキャブ専門の配車アプリまで登場している。地下鉄やバスはいわゆるタッチ決済型の改札システム(OMNY)が導入され、自分のクレジットカードをかざすだけで乗れるようになった。
今回、日本円5000円を両替したらわずか33ドル(1ドル約150円)。1ドル85円の時代に米国に住んでいた身としては衝撃的だ。サンフランシスコのケーブルカーは8ドル、ニューヨークの地下鉄は2.9ドルに値上げしていた。水は約2ドル。水より安いといわれていたビールも2ドルを下回ることはなかった。
ハンバーガーやスライスピザは15ドル前後が相場、そして確か昔1ドルだったニューヨークのホットドッグも3ドルに。ホテル代も高い。悪名高きリゾートチャージも健在で、例えばサンフランシスコでは宿泊料の他に1泊当たり25ドルがいや応なしに追加される。それと引き換えに無料のWi-Fiログインとペットボトルの水、ロビーではいつでもシャンパンを、といわれる。
それって普通タダでは、と思いながらせめて元を取ろうとシャンパンを何杯も飲む自分が恥ずかしい。飛行機と宿代が会社持ちの出張でもため息をつく物価だ。いわんやプライベートで旅行となったら。先立つものがなければ行けないよ、と諦めてしまうのも分からないではない。やはり日本人の観光客に出会うのは難しかった。これがわれわれが目指すべき姿なのだろうか。
日本の観光を論じる時、観光客を世界一集めるフランスや、DMOの運営の仕組みに秀でた米国をベンチマークすることは多い。しかしよく考えてほしい。「大幅な人口減少による国の衰退を観光客の消費で補う」というテーマで取り組んでいるのは日本だけだ。米国もフランスも緩やかではあるが人口は増えている。だから増加する観光客を受けるサービス業の人手不足に直面しているのも日本だけ。いたずらに他国をまねることだけが答えではないことも知るべきだろう。
米国もここに至るまではさまざまな紆余曲折があり、コロナ禍で需要が消滅する憂き目にもあったはずなのに。Determine that the thing can and shall be done, and then we shall find the way.(できる!それをやる!と決意せよ。やり方はその後見つけろ)とリンカーンが言ったように、やはりまずは始(はじ)めてみてからさまざまな課題を解決していけば、何事も最適解に近づいていくものだ。でも、私たちには始めてもいないことがあまりにも多すぎる。
高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。
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