中国市場が戻ってくる 求められる戦略のアップデート

2023.10.09 00:00

(C)iStock.com/julos

中国は8月10日、日本への団体旅行を解禁した。他国に比べ、訪日旅行の戻りが大幅に遅れているなかでの朗報だ。福島原発の処理水放出による影響が懸念され、今後の動向は予断を許さないが、前向きの材料は少なくない。

 中国政府による日本への団体旅行の解禁は、関係者に驚きを持って受け止められた。昨今の芳しからざる日中関係を考えると、意外に早い解禁だったからだ。「団体旅行の解禁はもう少し先のこと」。大方の予想はそのようなものだったようだ。

 一方で、日本政府による福島第1原発の処理水放出方針に対して中国側のネガティブキャンペーンは以前から続いており、団体旅行解禁も手放しで喜べる状況ではなかった。実際に8月24日の放出開始以降、中国では世論が反発し、放出反対の声が高まった。団体旅行解禁からわずか2週間で、訪日旅行の回復機運は処理水によって文字どおり水を差されることになった。

 もっとも、解禁から間もなく訪れた試練は、日中の旅行会社にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。訪日団体旅行商品の販売開始からまだ日が浅く、販売量がそれほど積み上がる前だったため、キャンセルの絶対量もそれほど多くなりようがなかったからだ。

 いずれにしろ、団体旅行解禁から処理水放出後までの一連の浮き沈みは、両国の関係性と政治状況に左右される中国訪日旅行市場を象徴するような動きだった。

2割回復はむしろ健闘

 中国からの訪日旅行需要の回復過程を振り返ると、まさに両国関係がその量とスピードを決めてきたようなものだと分かる。

 中国では昨年12月、ゼロコロナ政策の大幅な緩和とともに国内移動制限を撤廃すると、春節以降の国内旅行が急回復した。日本政府観光局(JNTO)によれば、労働節の連休期間(4月29日~5月3日)の中国国内旅行者数は延べ2億7400万人に達し、コロナ禍前の19年同期の19.1%増。端午節の連休期間(6月22日~24日)は1億600万人で12.8%増となり、コロナ禍の間にため込まれていた旅行意欲が爆発した。

 中国からの海外旅行も今年1月には国際線運航の制限が解かれ、一般市民の個人旅行が解禁。帰国後の集中隔離措置も撤廃された。2月には第1弾としてタイやシンガポールなど南アジアを中心に20カ国への団体旅行が始まり、3月には第2弾でベトナム、フランス、イタリアなど40カ国への団体旅行が始まった。ただしこの時点では、日本と西側主要国の一部は対象から外されていた。

 一方で日本側も、今年の初めは中国の感染状況を懸念して中国からの旅行者にPCR検査を義務付けたり、中国線乗り入れ空港の限定や増便の自粛要請などを行ってきたが、これらを緩和。そして8月10日に中国政府が第3弾として日本を含む78カ国の団体旅行解禁に踏み切ったわけだ。これによって日中間の移動制限は基本的になくなり、コロナ禍前の環境に戻ったことになる。

 中国からの訪日旅行需要もこうした動きに合わせて回復してきた。中国人訪日旅行者は4月に10万人を超え、6月に20万人、7月には30万人を突破し、8月は36万4100人を記録して19年同期の36.4%まで回復した。1~8月の累計は127万2200人で19年同期の19.3%。まだ少ないのは事実だが、団体旅行なしでここまで回復してきたのは健闘ともいえる。

 中国旅游研究院によると、上半期(1~6月)の中国本土からのアウトバウンドはマカオと香港が行き先の8割を占めるが、両地域を除く実質的な海外という点で見るとタイが3.3%で1位、2位が2.4%の日本だ。タイはすでに2月から団体旅行が解禁されていたのに対し、日本は個人旅行だけでタイに迫り、なおかつ台湾、韓国、2月に解禁されたシンガポールをも抑える健闘ぶりだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年10月9日号で】

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