100年フード
2023.09.25 08:00
100年フードをご存じだろうか。日本の多様な食文化の継承・振興への機運を醸成するため、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を、100年続く食文化「100年フード」と名付け、文化庁とともに継承していくことを目指すプロジェクトだ。
認定されるためには、地域の風土や歴史の中で創意工夫し地域に根差したストーリーを持つこと、世代を超えて受け継がれてきたこと、地域の誇りとして100年を超えて継承することを宣言する団体が存在することが条件となる。初年度の21年度は131件、22年度は70件が認定された。いままでにない地域固有の食文化資源を発掘、政府によってブランディング推進されるだけに、ツーリズム業界は新たな観光コンテンツとして期待したい。
一体どのような料理が認定されているのか。知られたところでは、きりたんぽ、へぎそばのような料理のほか食文化や料理の様式もある。有識者特別賞に認定された高知県の皿鉢(さわち)料理を例に挙げたい。
皿鉢料理とはお客さまを招いた宴会「おきゃく」で振る舞われる料理の様式のこと。四国遍路の歴史とともに市民に浸透する食のおもてなし文化となっている。大皿に盛られた刺し身、鰹のタタキ、寿司、煮物、焼き物、揚げ物、果物など食べたいものを好きなだけ小皿に取って食べる。料理が減ると大皿に食材が補充されるというバイキングさながら江戸時代から続く土佐固有の宴会料理だ。
文化庁100年フード有識者委員会座長を務める丁野朗さん(日本観光振興協会総合研究所顧問)によれば、100年フードの取り組みはまだ明確なビジネスにはなっていないとした上で「今年度が勝負。関係団体への普及に力を入れたい」という。実際、ホテル業界には100年フードをレストランで取り扱ってもらったり、大手食品メーカーと協働事業の仕掛けをつくったり、空港や航空機内でのキャンペーン、都道府県アンテナショップでの展開、SA・PA・道の駅や自動車関連の媒体を通じた事業展開などに着手しているそうだ。
「日本の食文化は世界的に大きな脚光を浴びている。100年フードもこれに合わせた展開をしたい。また日本遺産にも数多くの食の物語があり、文化庁内でもこれらの連携を深め新たな事業展開を図りたい」と丁野さん。
和食はユネスコ無形文化遺産に登録されている。和食といえば健康的な食生活を支える栄養バランスの優位性が注目されてきた。世界的な関心の一部はこの点にあり、健康志向拡大は世界共通となる。世界最長寿国というエビデンスを有する日本を表現する際の屈指の強みともいえる。100年フードも和食が培ってきた健康への知恵と摂取方法などの文化を提供サービスに含め、新たな価値を生むような仕掛けを期待したい。
観光ビジネスの視点では、100年フードを通じた健康的な食材と食生活を深く学ぶ体験を通じて、参加者の健康への行動変容のきっかけをつくるサービスが考えられる。これにより観光商品としてだけでなく、ヘルスケア商品としての要素を持つことになる。体験した食事や食材が参加者の健康的な食生活に欠かせないという認識になる可能性もある。結果として体験後の購買や継続的なお取り寄せ、ふるさと納税といった物販の売り上げに寄与していくことも期待できる。
100年フードは未開拓の観光コンテンツの宝庫だ。どのような料理があるのか確かめていただきたい。この文化継承とビジネス化はわれわれの業界の手にもある。
髙橋伸佳●JTB総合研究所ヘルスツーリズム研究所ファウンダー。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程単位取得満期退学、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了。経済産業省「医療技術・サービス拠点化促進事業」研究会委員などを歴任。21年4月より芸術文化観光専門職大学准教授。
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