ヘルスケアとしての滞在型ゴルフ
2023.08.21 08:00
皆さんは1日どの程度歩いているであろうか。厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21(第3次)」が来年から始まる。そこでは1日の歩数として20~64歳で8000歩、65歳以上で6000歩との目標値が示される。歩数の増加は生活習慣病予防やストレス低減、認知症予防などさまざまな健康上の意味合いを持つ。
筆者はどうか。休みであった今日は1500歩、昨日は5000歩程度。最近の酷暑という要因はあるが、ウオーキングだけする気にはならないでいる。そんな怠惰な生活をしているなか、ゴルフなら自然にウオーキングできるのにとふと頭をよぎった。調べると、ウオーキングを目的とした滞在型ゴルフツーリズムを仕掛けるゴルフ場がある。
ゴルフ業界は表面的には堅調だ。日本ゴルフ場経営者協会によれば、02年のピーク時から1割以上減ったとはいえゴルフ場は2194コースある。わが国のゴルフ人口が773.8万人(総務省、21年)と推定されるなか、同協会の21年の年間延べ利用者数は8969.4万人となり、ゴルフ場数がピークであった02年の8840.9万人と比べても利用者は減少していない。
ただ、ゴルフ業界の堅調な背景には特殊要因も存在する。利用者に課税されるゴルフ場利用税に03年から非課税制度が導入されたことだ。結果として非課税対象である70歳以上のゴルファーがゴルフ場を支えるといういびつな顧客構造となっており、ゴルフ業界として新たな顧客層を開発する必要性が生じている。
ヘルスケアサービスの視点で滞在型ゴルフツーリズムを仕掛けたのは石川県にある小松カントリークラブだ。営業企画部長の北芳光さんは「80歳以上になるとゴルファーは極端に減ってしまう。あと5年で非課税バブルは終わる」と危機感を募らせる。そこで滞在型ゴルフツーリズムである。
同社は従来からツーリズム化に積極的だ。北陸3県のゴルフ場は、石川は人口111万人に対して24カ所、富山は101万人に対して14カ所、福井は76万人に対して11カ所で、明らかに石川県にはゴルフ場が多い。地元向けだけでは成立しないとの認識の下、07年にトーナメントコース化して全国に向けた高付加価値化の道を歩みつつ、近隣ゴルフ場とセットにしたゴルフプランを旅行会社に売り込み軌道に乗せてきた。
しかし、従来の延長線上でサービスを追求すると安いゴルフ場に顧客は流れてしまい平日は閑散としたまま。そこで、新しいセグメント開発を目的に健康経営企業を対象としたサービス開発に乗り出した。プログラムでは、トーナメント開催コースで活動量計を装着してゴルフプレーを楽しみながら個々の運動強度変化を測定。健康貢献度が向上する歩き方を学べるように工夫されている。加えて、地産地消の食材による健康食体験やゴルフ場外でのウオーキングメニューなどもあり、観光要素も含めながら健康への行動変容を図る内容となっている。
すでに「ヘルスツーリズム認証」をゴルフ場として初めて取得したほか、健康経営優良法人である建機大手の小松製作所が社員の健康増進のため同プログラムを導入するなど実績を上げつつある。健康保険組合がプログラム体験費を負担、宿泊費は企業が負担、採用する企業の費用分担の仕組みもできてきた。
ゴルフを習慣的に行う者は健康意識も高く、日常生活でも1万歩を達成しているという研究成果がある。大人の社交場でもあるゴルフ場は企業との親和性も高く健康経営の場として好適だ。さらにヘルスケアという付加価値を付けたツーリズム化は、インバウンドゴルファーの誘致策としても期待できるだろう。
髙橋伸佳●JTB総合研究所ヘルスツーリズム研究所ファウンダー。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程単位取得満期退学、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了。経済産業省「医療技術・サービス拠点化促進事業」研究会委員などを歴任。21年4月より芸術文化観光専門職大学准教授。
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