面的な恩恵
2023.07.31 08:00
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最近の各地域が取り組むインバウンド関連の事業を見ると、着地コンテンツ造成に関する事業、これらをつなぐ旅行商品造成に関する事業、さらには高付加価値層をターゲットとしたイベント実施やコンテンツ開発に関する事業など、プロダクトの充実を狙ったものが多い。効果的な観光地マーケティングを行うには市場の変化、旅行者のニーズに合わせた着地コンテンツ、それらをつなぐ旅のプランを練ることは欠かせない。観光消費を高める上では富裕層をターゲティングすることも有効だろう。
いずれもマーケティングのセオリーに沿ったもので、地域の強み(売り)を生かせるセグメントをターゲットに、競合との差別化のためにポジションも工夫する(STP)。その上でマーケティングミックス4Pに基づき、売りを生かした価値相応の価格のプロダクトを整え流通させていく。
一方でマーケティングのセオリーからすれば、このままでは観光が地方を支える産業となるには不十分と言わざるを得ない。地方の観光需要を高めるプロモーション施策が明らかにおろそかになっている。国は新たに地方の誘客促進を政策目標に掲げ、地方における高付加価値コンテンツの増加を重点的に取り組むとするが、プロモーション施策は極めて限定された予算配分となる。
不足するプロモーション施策を地方の自治体やDMOが補っているかといえばそうでもない。むしろ国の方針に沿って自らプロモーション予算を削っている印象さえある。このままでは一部の際立ったコンテンツがあちこちに無数の「点」として生まれるだけで終わってしまう。中にはユニークで魅力的なコンテンツもあり旅行者が訪れるため、「地方誘客促進」というお題はクリアしたことになるものもある。しかし、地域が外国人旅行者を呼び込むことの恩恵を面的に享受する形にはならない。これが地方が望むインバンド獲得の効果なのだろうか。
地方がインバウンドの恩恵を受けるにはプロモーションが欠かせない。質を求めた施策への転換を図るには早すぎる地域が大半だ。つまり、それほど多くの旅行者が訪れたことのない地域がプロモーションをやめてしまったらどうなるのか。広告依存や動画再生数を狙うだけのデジタルマーケティングなど、過去の質の悪いプロモーションがトラウマとなり、その再現を恐れているのか。
こうした認識が背景にあるからか商品造成や流通を担うDMCの重要性を唱える声も多い。しかし、自治体の観光部署やDMOが地域単位の観光需要を高めなければ、そこに存在する宿や飲食店、交通事業者など多くの事業者が面的な恩恵を享受できず、観光関連産業という地域産業全体の発展にはつながらない。本来地域が目指すべき誘客促進について、あらためて考えていくべきだろう。
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村木智裕●インセオリー代表取締役。1998年広島県入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の中枢を経験。2013年からせとうちDMOの設立を担当し20年3月までCMOを務める(18年3月広島県退職)。現在、自治体やDMOの運営・マーケティングのサポートを行うIntheory(インセオリー)の代表。一橋大学MBA非常勤講師。
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