訪日医療の取り組みを
2023.05.29 08:00
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日本政府観光局(JNTO)が発表した訪日外客数の3月推計値によれば、個人旅行再開以降の最高となる181万7500人を記録するなど、インバウンドが本格的に復活してきたことが明るいニュースとなった。新たな観光立国推進基本計画では、観光地・観光産業について持続可能な形で「稼ぐ力」を高めるなど、今後は高付加価値旅行の取り組みが期待されている。
高付加価値旅行の1つとして、医療を含めた旅行が挙げられる。21年に実施された観光庁の「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」では、コロナ禍前となる19年のデータを用いて富裕旅行者が医療を求めていることを確認した経緯がある。三井住友カードのデータを用いて富裕者旅行のセグメント別の消費業種を分析し、議論されたものだ。
注目すべきは300万円以上を消費する富裕旅行者(中国、ベトナム等)では、医療(病院・クリニック)への高額な支出をすることが確認されている。セグメント別で見ても、免税店、レジャー(ゴルフ、映画、カラオケ等)、衣服小売りなどより多い7位に当たる消費額レベルとなっているほどだ。
旅先で医療を求める動きは医療インバウンド(国際的にはメディカルツーリズム)と呼ばれる。医療を目的とした渡航という消費行動は、渡航者の居住国・地域と比べた医療の質、医療コストの差、時間的な問題の3点によって起こる。コロナ禍となって人々の移動の制限とともに、コロナ対応の中心にある医療機関の状況によって医療インバウンドは実質的にストップした。
しかし、医療渡航支援企業(医療コーディネーター:日本で医療サービスを受けるために訪日する受診者に対し、受け入れに関わる一連の支援サービスを提供する認定事業者)から、ベトナムからの渡航者を中心に医療インバウンドの問い合わせが急増しているとの声が聞かれるようになった。ただ、中国からの問い合わせについては依然低調だ。背景には、富裕旅行者が取得できる観光のマルチビザ発行が厳しく制限されている点が大きいとされている。
もっとも、東京大学医学部附属病院が4月に受け入れを再開するなど受け入れ先となる国内医療機関も再び増えつつあり、医療インバウンドを取り巻く環境は大きく改善している。厚生労働省においても「地域の医療・観光資源を活用した外国人受入れ推進のための調査・実証事業」を実施する予定であるなど、訪日外国人旅行者に向けた新たな医療環境を整えていく機運が高まっている。
アジアにおける医療インバウンド先進国としてタイが挙げられる。同国の18~37年の20年国家戦略の中では、国際競争力を高める戦略に医療インバウンドが明確に位置付けられている。世界的な高齢化社会による医療サービスの需要増に対応するため、医療産業の世界的なサービスの中心地となることを目指すとしている。
さらには、医療サービス産業とヘルスツーリズム産業を結びつけ、タイを医療と総合医療サービスの中心地とし、観光産業としても健康、美容、伝統的なタイ医学をもって推進していくとも表明し、整備が進められている。
世界最長寿国としてのエビデンスと医療技術と知見を有する日本は、タイ以上に世界的な医療インバウンドの中心地となるポテンシャルを有しているともいえる。加えて新型コロナウイルス感染症対策で培った医療との連携の知見とサービスを活用することで安全性を高めるサービスも整っている。高付加価値旅行の推進を目指すなかで医療資源に再注目したいところだ。
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髙橋伸佳●JTB総合研究所ヘルスツーリズム研究所ファウンダー。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程単位取得満期退学、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了。経済産業省「医療技術・サービス拠点化促進事業」研究会委員などを歴任。21年4月より芸術文化観光専門職大学准教授。
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