富裕層誘客モデル始動 高額消費者を呼び込む観光地づくり
2023.05.29 00:00

地方における旅行消費額の拡大と誘客強化に大きな効果が期待される富裕層の旅行需要。観光庁は富裕層戦略を本格化するに当たり、全国にモデル観光地をつくり成功事例の創出を目指す。富裕層獲得に乗り出す観光庁と観光地のいまに注目する。
観光庁が昨年8月に公募した「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル観光地」として、北海道から沖縄まで11地域が選ばれた。観光庁によれば、想定をはるかに上回る62件の申請があったとのことで、地域の絞り込みと選定は外部有識者により段階を踏んで慎重に行われた。
まず1次審査として、観光庁が「高付加価値旅行層」と呼ぶ、着地消費額が1人当たり100万円以上の旅行者が一定期間滞在し周遊しながら観光を楽しめる素材と魅力がエリア内に存在するかという観点から、外部有識者が点数評価し、申請の半数程度に絞り込んだ。そのうえで2次審査で現地調査を実施し、その結果も点数化して最終的に11地域を選定した。この現地調査の際、一部の申請については地理的に近接していたり売りとするものが重複していたため、連携して取り組むことを提案。その結果、11地域の中には、申請者側に諮ったうえで大きく地域をくくったエリアが含まれる。
最初に申請のあった62件の中には町単位などかなり狭いエリアでの申請もあったという。そのため、富裕層の誘致・滞在を実現するための素材に欠ける場合には大くくりで指定することによって、多くの申請地域を取り込もうという判断が働いたものと思われる。
新たな体制づくり求める
モデル観光地の中には、八幡平や那須、伊勢志摩など比較的限られたエリアで選定されたケースもあるが、他の申請地域との連携を促された自治体からは戸惑いの声も聞こえてくる。だが、あえて一石を投じた面もあるようだ。自分のエリアだけにこだわらざるを得ない既存の行政単位での観光地づくりでは、高付加価値旅行者を受け止め切れないとの懸念があるからだ。観光庁国際観光課の齊藤敬一郎課長は「あえて行政区分を乗り越えて、旅行者目線の周遊ルートをつくり上げていくためにチャレンジしてほしかったし、新たな誘致体制に変えていくことも狙いの1つ」と説明する。
モデル観光地は今後、1年をかけてマスタープランを策定する。マスタープランとは、エリアの観光地づくりに関する基本方針であり、高付加価値旅行者を呼び込む観光地に求められる5要素についてスケジュールや役割分担を明確化するもの。5要素とは、ウリ(地域のコアバリュー)、ヤド(上質な宿泊施設)、ヒト(ガイド・ホスピタリティー人材)、アシ(移動や域内周遊のための交通連携)、コネ(海外高付加価値層とのネットワーク)。これら全体を推進する体制の強化もあらためて求められる。これが、縦割りを打破した旅行者目線の新体制に当たるわけだ。
地域側の取り組みに対し、観光庁は専門人材を派遣し、マスタープランづくりを支援する。専門家は観光コンテンツやデベロップメント、ブランディングといった分野に加えてファイナンスも含まれる。例えば宿泊施設を新設する場合などにはファイナンスの裏付けが必要で、助言が欠かせないからだ。また、ターゲット設定やニーズ把握に向けたデータ収集の市場調査を資金面で支援する。
加えて、基本的に1地域につき職員2人を担当として配置。適宜必要な情報提供を行い地域からの相談にも応じる体制を整えた。担当者は庁内で募集し、若手で長く地域に関われる人材を中心に担当者を選んだ。1つの事業で各地域に2人ずつの職員が担当に付くのは聞いたことがない。観光庁も異例の対応であることを認めており、高付加価値旅行者の誘致拡大への本気度がうかがえる。
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