カリフォルニアの水問題と観光 

2023.05.15 00:00

 水は観光とも深い関係にあるが、水を巡る争いは古今東西熾烈を極める。カリフォルニアでは大洪水と干ばつが起きるたびに洪水の水を利用して干ばつに備えるべきとの意見が繰り返されたが、水利権と無責任な役所仕事のため良い方向に進展していないとニューヨーク・タイムズが伝えた。

 洪水であふれる川から取水し畑や砂地に送ると、干上がった土地の地下水層を潤すことができるが、カリフォルニアではこの冬、半年ぶりに大量の降雨があったにもかかわらずすべて海に流れた。水利権を持たない地主や地域機関は州当局の事前許可がない限り川から取水して貯水できないためだ。

 地元関係者や専門家は官僚主義のせいだと非難する。州は下流の人々の権利を保護するために河川からの取水を厳しく規制しており、豪雨で川が氾濫しようとしている時でさえ機敏に対応しない。

 ワイン観光で知られるソノマでは、ブドウ園と地元関係者が先住民と協力して嵐の際に川からあふれる水をブドウ畑に回す配水システムを作ろうとしているが難題は州の水道当局だという。洪水の際も流路を変更することは下流の人々の水利権を損ねると当局は懸念しているようだ。

 事前に許可を申請した地区では嵐で河川が氾濫し、少なくとも2人が死亡してから1週間以上後にようやく許可が出たものの、洪水のため取水装置が機能せず取水できなかった。他の流域では雨が降りやんだ時にのみ洪水から取水できるという許可が出て、氾濫前のわずか数日だけ取水できた。

 雨季のかなり前に許可申請を行い取水用インフラを準備するのは申請者の責任となる。許可手続きも突然の洪水に対処するには面倒すぎるとの不満もある。手続きでは取水者が他の水利権を侵害せず魚や野生生物に害を与えないことが前提になり、検討のための会議や協議、公聴会の公示期間のため全体で数カ月かかる場合もある。その結果出される許可も暫定的で、特定の条件が満たされた場合にのみ180日間取水できる。

 雨季がほぼ過ぎた半年後に申請が却下された例もある。理由は取水により他の水利用者に害を及ぼさないことの証明が不十分だったというものだ。

 州当局も問題は認め手続きの合理化に取り組むうえ、申請者と協力して洪水の水を合法的に利用できるよう支援しているが、既存の権利所有者を保護する100年前の水利権制度に当局は従わざるを得ず、責任は法整備を行う州議会にあるという。

 カリフォルニアでは70年以上にわたり洪水のたびに水の心配は終わったとの宣言が出された。この冬は記録的な少雨だったが、次の水不足への対応の保証はない。シエラネバダ山脈の雪と巨大貯水池は注目されるが、地下水層なら州の主要な貯水池を合わせた量の8~12倍を貯水できる。長期の干ばつに備えるには雨水をもっと利用する必要があるにもかかわらず、多くの水を貯水する機会が逃される。

 行政の無策で農業が立ち行かず、多くの命と農産物が危機に瀕するため一部の人が立ち上がろうとしている。観光振興の立場からも注視したい。

平尾政彦●1969年京都大学文学部卒業後、JTB入社。本社部門、ニューヨーク、高松、オーストラリアなどを経て2008年にJTB情報開発(JMC)を退職。09~14年に四国ツーリズム創造機構事業推進本部長を務めた。

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