これからはDMC?
2023.04.03 08:00
「DMOは駄目だからこれからはDMCだな」。そんな声が聞こえてくる。DMOの育成が始まったのが15年。それ以来、「DMOは大丈夫か」という話は常にあるが、今回はDMOに代わってDMC育成に将来性を感じてのようだ。実際、DMOに関してはかれこれ7年施策を講じているが、課題ばかりが取り上げられる。ただ、それはDMOの成長過程を考慮せず、最初から高いハードルを設けて、つまずいている組織には落第のレッテルを貼るような育成方針の結果ともいえる。
基本的な役割から始めなければならない地域が大半なのである。では、DMOに代わってDMCを育成することが解決の近道かといえば、それは違うだろう。DMOとDMCは活動する領域が異なるからだ。持続可能なデスティネーションはどちらか一方だけで成立するのでなく共に必要な組織。つまり、地域事業者の共益の観点からメディアや旅行会社対策などを通じて発地サイドに働きかけ、需要を創造するのがDMO、その高まる需要を着地サイドで生かすため、地域の商品サービスの流通・供給機能をビジネスとして提供するのがDMCである。
しかし日本国内の実態としては、成功例として取り上げられるDMOがDMC的性質の事業を行うことが多い。例えば、極めて狭い地域で宿泊事業を中心とした地域開発を行う組織や、限定された地域でランドオペレーター機能に特化し欧米旅行者向けの旅行商品提供を行う組織など。つまり、着地サイドにおける一部機能を極めることに集中し、そうした地域にも欠かせないはずの観光需要を高める機能は捨てるか他の組織に依存している。
こうしたDMOも今後、世界中の旅行者に知られ、多くの旅行者を呼び込むためには、その地域の需要創造を担うことのできる本来的なDMOの存在がなくてはならないはずだ。冒頭のDMC優位論の前提には観光需要の創造、とりわけインバウンド対策は政府が担い、後は地域のDMCがそれらの受け皿となればよいという発想もあるようだが、それも旅行者の旅の実態から乖離している。
外国人旅行者にとって、日本は1つのデスティネーションとするには広すぎ、DMC機能を磨き評価されるDMOの地域は多くの場合、その地域だけでは旅の行程が埋められない。つまり、日本への来訪意向を高めることを政府が行い、高まる日本の認知を生かし、瀬戸内、九州、紀伊半島や奈良、和歌山などの比較的広域のデスティネーションの来訪意向の向上は地域のDMOが担う。そして地域内の地域DMOやDMCが着地サイドで観光地づくりや旅行商品造成を担う形が合理的といえる。
国内でDMOの議論が始まった当時はそんな構想だった。海外DMOを見ても同様の考え方に立っている。あらためて基本に立ち返ってもらいたい。
村木智裕●インセオリー代表取締役。1998年広島県入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の中枢を経験。2013年からせとうちDMOの設立を担当し20年3月までCMOを務める(18年3月広島県退職)。現在、自治体やDMOの運営・マーケティングのサポートを行うIntheory(インセオリー)の代表。一橋大学MBA非常勤講師。
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