観光・旅行業のレジリエンスに思う キーパーソンアンケートから①

2023.01.02 00:00

トラベルジャーナルが観光業界のキーパーソンに実施した観光・旅行業のレジリエンス(弾力性・復元力)についてのアンケートから、自由記述欄の回答を紹介する。アンケートの結果は週刊トラベルジャーナル23年1月2・9日号で。

 「ビジネスモデルに潜むリスクを再度認識し、一過性の繁忙期やADR上昇に惑わされることなく、繁閑の大きな波を作らず、事業リスクをヘッジする仕掛けが肝要。中長期的な目線での再訪や指名買いの強化など、どうやって顧客と事業者・地域でこれまで以上の関係値を構築するかを考え行動に移すことがあらためて重要視される局面にある」

 「新卒後にあるホテルにお世話になり、若手社員の立場から会社の経営を見上げてきた。厳しい時代でいくつ乗り越えてもまた難局という環境のなか、銀行から来た経営陣らが懸命にさまざまな金融手法を駆使して倒産などは避けられた。それには感謝する一方、ホテルの価値ということを考えた際、それがベストだったのかはいまでも疑問。名門ホテルが普通の古いホテルになって生き延びただけという気がする。現在の経営体を残すことをレジリエンスと呼ぶなら反対」

 「コロナ禍で一番痛かったのが観光マインドの減退。政府が地方自治体に感染症対策の意思決定を委ねたのは失敗だった。特に県境をまたぐ移動の制限はもともと日本人に根付くムラ意識を目覚めさせてしまい、県外からの来訪者を敬遠、忌避するという前代未聞の事態が3年間続いた。いくら業界が頑張っても足を引っ張り続けられるという最低最悪な状態になっている。とにかく政治・行政には言葉だけでも強い応援・支援メッセージを出してほしい。これだけでも大きな回復力を得ることになる」

 「コロナ危機やウクライナ侵攻をはじめ、観光・旅行業の危機は今後も続く。自分の業界だけが助かろうということではなく、業界間のコミュニケーションをこれまで以上に活発に行い、相互発展を目指すべき。観光関連の学術や教育現場においてもこれまで以上に観光・旅行業との結び付きを強め、観光復興に貢献し得る知見を発信し、若年層に有為な知識を提供できるよう努めたい」

 「流行やブームに左右されない本質的な取り組みが多様性につながる。地方における観光振興が日本全体の多様性を高める」

 「SNS等を使って個人から個人に口コミで伝わる情報は、中央が一括して配信する情報と比較して分散しているがゆえに多様性も含まれる。そういった情報に基づいて行動する旅行者はより時期も空間も分散して移動するので、一方でレジリエンスを生み出している。つまり分散されている状態ほど一気に大きなビジネスにならないまでも一斉に大きなダメージを受けにくい」

 「国内観光における消費額向上は業界内でできることは限定的で、企業の働き方、学校教育のあり方など国民の消費行動を強制的に変える施策がないままでは実現できないため、そういった視点での施策策定・実行を期待する。インバウンドにおいても観光消費額増加の方向に目が向いていることは歓迎すべきだが、ウオッチすべき指標は観光消費額でなく1人当たり観光消費額とすることが持続可能な観光の側面から必須である」

 「いわゆるソリューション事業は旅行会社の看板でやるべきものなのか。プロモーションと着地環境整備のエネルギーのかけ方はいまのままでいいのか。本当に地域を持続させる、その先頭に立つのは誰なのか。本格的な人口減少時代に地方を含め日本各地に人が訪れるという願いは本当にかなうのか。サービス業従事者は今後増やすことができるのか」

 「そもそもこれまでの日本の観光・旅行業においてレジリエンスがあるような産業構造であったとは考えにくい。各事業者が持続可能な観光運営に積極的に取り組まない限り、レジリエンスの要素すら把握できない」

 「昔々の旅行業者依存形態とは大きく形を変えて再びしっかりした連携で動く必要がある。このことを理解できパートナーとなる旅行業機能はどこにいるのか。あまりにも旅行業者は勉強していないし地域を見ていない」

 「コロナ前の効果をそのまま期待することはできないと強く感じているが、業界の動きはまだ大半が復元を信じ、準備しているように思えてならない。いままでの考えをリセットする必要性を大いに感じる」

 「個社の経営戦略や事業計画が近年は変質しつつあるものの、依然として事業者が生活者へ価値提供の名の下、自社の商品やサービスが良いものとしてその価値を押し付けている。事業者との接点を通じて価値共創に至ったと顧客に感じてもらわずして、観光・旅行業が生活者から真に受け入れられる蓋然性は乏しい。特に伝統的旅行会社はその存在価値が失われ、あらゆる事務を受託するなんでも屋に成り下がったいま、社会へのいかなる価値を提案するのかを明確にすることなしでは復活までの道のりは果てしなく険しい」

 「レジリエンスとブランドの関連性について、日本の観光ビジネスでは議論されることが少ない。ブランドは魔法のつえで瞬時につくられるものではない。海外観光局の多くが長い時間とお金をかけて組織ぐるみで戦略的に取り組んでいる」

 「欧米諸国のコロナ対策と中国のゼロコロナ政策の行方が気になる。マスク文化が定着してしまった中での水際対策緩和によるインバウンドの復活が今後どのように国民に理解されるのか注視していく必要がある」

 「レジリエンスを本気で目指すのであれば組織的な対応能力を見直すことも必要。構造的な課題が解消されなければ見かけ倒しになる危険性がある。時が過ぎればまた昔のようになるというビジネス感覚はこの際捨てて、新たなビジネスモデルを考える意味でのレジリエンスと捉えるべき」

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