観光業界キーパーソンの22年回顧と展望②

2022.12.19 00:00

トラベルジャーナルが観光業界のキーパーソンに実施した「22年のニュースランキング」に関するアンケートから、自由記述欄の回答を紹介する。ニュースランキングの結果は週刊トラベルジャーナル22年12月19・26日号で。

「長いコロナ禍は完璧なまでにこれまでのツーリズム産業の概念を破壊した。鎖国が解け、旅行支援が始まり、見た目は”戻りつつある”に変わったが、破壊されたものを取り戻そうとするとき、これまでとは違う取り戻し方が必要だということにどれくらい気づいているだろうか。その道のりは険しく、決して前と同じようには戻らないことを前提に多くのことを組み立てなければならない。その覚悟はあるだろうか」

「22年のニュースは、やはり訪日個人旅行解禁とロシアのウクライナ侵攻によるさまざまなマクロ的要因に集約されるように思う。歴史的円安についても遠因はウクライナでの問題が関係している」

「雇調金の不正受給にも問題の本質が垣間見えるように、国に頼ることが経済的に最も合理的な選択肢になってくると、産業構造に歪みが生じやすい」

「観光競争力で日本が世界で1位に選ばれた要因の1つは、個々の地域における旅行者の満足度を上げるための草の根的で多様な取り組みの結果のように思われる」

「コロナ禍の継続、ウクライナ戦争、内外の異常気象・災害、急激な為替変動、目に見える世界的な物価高。22年はツーリズムの敵が見事に並んだ最悪の1年だった」

「海外旅行の再開など明るいニュースが出ても、クルーズは取り残されているという状況をこの1年まざまざと感じさせられた。ようやく国際クルーズのガイドラインが発表され、終わり良ければと思いたいところ。ただ、これから日本国内の港湾管理者との調整など難関が待ち受けての年越しになりそう」

「コロナ第8波の影響が小さく短期間で収束することを期待している」

「22年で注目すべきは、やはりコロナ禍からの回復に関する動き。プラスとマイナスの両面で観光産業に大きく影響を与えた」

「今後につながる今年の動きはやはりサステナブル関連とIT関連。どちらも地域活性化にもつながる。またここ数年、観光は地域に注目が集まっているが、パリやニューヨークと競合する都市観光にスポットを当てるのもいいのではと思う」

「やはり22年もコロナの影響が強く出てしまった。当初、24年まで影響が残ると想定したが、それが当たってしまいそうな状況」

「海外の物価高や円安は海外旅行のハードルを押し上げている。インバウンドを含め、しばらくは国内旅行中心の旅行市場になるのではないか」

「水際対策が緩和され、ようやくウイズコロナ時代の旅行準備が整いつつあるなか、この間に離れて行った業界人材の不足は今後大きな足かせになる。また、倒産件数の抑制は表面的にすぎず、この間に傷んだ経営と失った信用はより深刻なのではないか。業界プレイヤーの交代もさらに進むと思う」

「目先の利益や忙しさに追われ、長期的な展望や哲学なしの業務、税金の正しい使い方が問われるような事業……。コロナ禍によって観光業のあり方が変わるかもしれないという希望は、本格的な観光再開とともに幻想に終わり、ますます収奪のシステムの中に埋没してしまいそう。その一方で、各地域で実践されている持続可能な観光運営の取り組みを業界全体で共有し、観光業が果たすことのできる力を信じたい」

「コロナ禍の暗いニュースが続くなか、日本の観光競争力1位のニュースは起死回生。観光が日本にとって重要な産業であることを再認識する良いニュースだった」

「新たな観光立国基本計画の策定は今後の観光を占う意味で重要ではあるが、検討開始が世界から周回遅れている分、世界の最先端を取り入れ、客数に捉われない持続可能な革新的目標を掲げてほしい。同時に、供給側だけでなく、国には年次有給休暇に関する条約(ILO第132号)の批准など、欧米並みの長期休暇制度の法制化など需要側の構造改革もぜひ進めてほしい」

「人手不足は待遇の問題が根底にある。一方で、観光業界ではコロナで大幅に人材が流出したが、再生局面では大幅な人材流入となる。少なくともこれほど流動性が高まった例は過去にない。これが業界のイノベーションを加速させるか、注視している」

「観光地の面的再生は、ようやく日本でも都市計画や土地利用において観光の観点が入ることを指し、その意味は大きい。失われた30年の地域再生の起爆剤になるかもしれない。単なる人工物のスクラップ&ビルドではなく、自然環境と調和した地域になじむ景観づくりを期待したい」

「物価高・円安のダブルパンチで旅行代金が高騰する海外旅行の動向は非常に気になっている。海外旅行が高い買い物になるのであれば、娯楽の消費でなく学びの投資になる。出張や会議もオンラインで代替できるので、実際に出向くにはそれなりの理由が要るはずだ。一方で、研修旅行や留学をしたい若者にとって世界が遠くならないよう、産官学で若者への投資をしてほしい」

「日本は世界のベストプラクティスから学ぶことで発展してきた国だ。しかし、いまの日本はOECD諸国の中で教育科学技術予算が対GDP比で最低である。逃げ切り世代によるシルバー民主主義の呪縛に惑わされず、未来の世代への投資ができるか、大人は目を逸らしてはいけない」

「コロナ禍3年目にしてようやく水際対策の緩和が実現した。待ちに待った時を迎え、これから日本人が海外に安心して渡航できるように、私たち旅行業界も本業の仕事で社会に貢献したい」

「コロナ禍が収束に向かう一方で、ウクライナ侵攻、円安、人手不足と新たな課題が次々に起こり、不確実な社会に対応できる柔軟性や判断力が会社の経営にますます求められることに危機感を募らせる。今後、旅行業がどのように変革していくのか注視したい」

「水際対策の大幅な緩和で訪日旅行が本格始動したいま、歴史的な円安や25年の大阪万博等で今後さらなる訪日需要が喚起されることを期待している」

「サステナブルというキーワードが一過性のもので終わることのないよう、航空会社として継続して取り組み、発信していくことが大切だと考えている」

「暗中模索ながら、徐々に観光業復活への明るい兆しが見え始めた1年だった。全国旅行支援の開始やインバウンドの解禁は業界にとって非常にポジティブなニュースとなったが、事業者の経営は依然として厳しい状態が続く。特に全国旅行支援の申請等の事務手続きは旅行事業者にとって大きな負担となっており、改善等を求める声が噴出している。また、ロシアのウクライナ侵攻や記録的な円安などが続いていることも今後の観光産業にとっては大きな不安要素」

「観光業・宿泊業においては、“喉元過ぎれば熱さを忘れる”がすぎる一面がある。コロナ禍で大きな事業リスクに直面したものの、全国旅行支援再開で上昇した稼働率等の指数評価のみで浮足立つ短絡的な事業者も少なくない。結果として運用に振り回され、人手不足による稼働圧迫という事業の根幹で悩む事業者ばかりである」

「ビジネスモデルに潜むリスクを再度認識し、『何度も地域に通う旅、帰る旅』という旅のスタイルなど、繁閑の大きな波をつくらず事業リスクをヘッジする仕掛けが肝要。中長期的な目線での再訪や指名買いの強化など、どうやって顧客と事業者・地域がこれまで以上の関係値を構築するか、あらためて重要な局面にあることがわかる年となった」

「GoToや全国旅行支援などの施策が、実態として旅行会社の業務負担を増大させてしまい、望まれるほどの利益に結びついていないと思われる」

「人手不足は目先の課題ではなく、今後恒常的に続く課題だという認識が業界や地域にあるか。観光産業を希望する新卒は確実に減少している。中途採用や外国人に道を求めても、業界外に去る人材を増やしてしまえば先がない。DXを進めると同時に単価アップを進めていかねばブラック産業のレッテルを張られかねない。そういう意味でも高付加価値化や業態の多様化を伴う面的再生の旗を振るリーダーの存在が存亡の分かれ道だと感じる」

「旅行業大手各社が非本業に力を入れたり行政の補助金に群がったりすることは、目先の日銭を確保する目的として理解はできる。ただ、5年、10年、30年、100年後にドメインたる旅でいかなる勝負手を市場において繰り出すのか。業界や業界をけん引する立場の企業群のアウトプットにその端緒すら見えないことは疑問に感じる」

「サステナブル系の話題が他業界に比べて少ないなと感じている。ツーリズム業界としても今後はサステナブルに関する関心・意識を高めていきたい」

「旅行・観光は人々の生活に潤いを与える一助になっていること、社会全体に裾野の広い業種であること。これらにもっともっと世の中の理解が深まり、従事する人々の待遇が改善され、優秀な若者が希望を持って就職できる業界に発展していくことを願う」

「欧米はじめ海外では、旅行者はマスクなしでコロナ前のように自由に旅行ができる状態になっているが、日本では厚労省が屋外でのマスク着用をしなくてよいと呼びかけてもなお、着用している人が多数である。訪日客と日本の市民との間で認識の相違がさまざまなあつれきを呼びそう。日本の訪日観光業において、訪日客がストレスなく満足できるようにグローバルな視点でのガイドラインが望まれる」

「ローカル鉄道に先行し、すでに、地方の路線バス事業は国と自治体の支援に大きく依存している。公共交通が営利事業として成り立ってしまった昭和の日本の奇跡的な好条件が崩壊した以上、公共交通の安定した運行を維持するための新しい事業モデルづくりに取り組むのは必然。ただ、路線維持の補助金を前提とすると、ルートやダイヤなど現状維持が原則となり、入込観光客に向けた施策が実は困難になる。近くて遠い公共交通(運輸)と観光の関係がますます遠くなることを危惧している」

「国を閉じていたこの2年半余り、インバウンド関係者にとっては非常につらい冬の時代だったが、それにもかかわらず、世界経済フォーラムの旅行・観光開発指数で日本が1位に選ばれたことは、日本のインバウンドの可能性を感じさせてくれる非常に勇気づけられるニュースだったと思う」

「MICEへの打撃、人手不足等、コロナによる爪痕はまだ癒えておらず、加えて、ウクライナ情勢の緊迫化は依然としてインバウンドに暗い影を落としているが、富裕層ターゲットの誘致強化、観光地の面的再生といったインバウンド再興に向けた取り組みはすでに始動している。さらに観光立国基本計画策定に向けた検討も始まり、観光が力強く前を向いて進み出したと感じている」

「経済活動を正常化していこうという動きが加速するなか、感染拡大期になっても一律の行動制限を課さないという国からのメッセージ、および10月からの全国旅行支援と水際対策緩和は、旅行するきっかけをつくるという意味で、逡巡していた消費者の背中を押してくれることに大きな価値があったと考える」

「私たち事業者も消費者も、自分自身でいま何が最適かを考え、行動とリスクを両輪に動けるようになった。まさにアフターコロナにおける新しい観光産業復活につながる大きな転換点になったのではないか」

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