ふるさと納税という選択肢 旅行流通に新たな一手

2022.12.05 00:00

(C)iStock.com/Ichumpitaz

モノが返礼品の主力となっているふるさと納税で、旅行関連商品の取り扱いを強化する動きが活発化している。ふるさと納税は21年度の寄付件数・額ともに過去最高を記録。行動制限が解け、リアルの旅行が拡大するなか、旅行返礼品の需要はさらに高まると予想される。

 全国旅行支援の開始が政府から発表された9月下旬。気兼ねなく旅行できる社会的なムードが醸成されたこの時期に前後して、ふるさと納税の返礼品に旅行関連商品を提供する取り組みが相次いで発表された。

 京丹後市は9月1日、寄付への返礼品として市内宿泊とピーチ・アビエーションの関西空港発着航空券をセットにした「Peach京丹後旅行クーポン」の出品を開始した。10月3日には豪華客船「飛鳥Ⅱ」を運航する郵船クルーズが横浜市と神戸市の返礼品として、飛鳥Ⅱの2泊3日クルーズを初出品。この商品を扱うふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」は特集ページを公開し、「極上のクルーズ旅はじめました」と訴求した。同日には、高級ホテル・旅館予約サイト運営の一休が宿泊特化型ふるさと納税サイトを開設して仲介事業に参入。得意の高所得者層を対象とした新事業に位置付けるとともに、地方創生への貢献を目指すとした。

 ふるさと納税は年々規模が拡大している。総務省によれば、21年度の受入額は約8300億円で前年度から23%伸び、件数も27%増の4447万件余りに達した。これに伴う住民税控除額は28%増えて約5700億円となり、控除適用者数も31%増の約741万人となった。15年度から21年度までの6年間でふるさと納税の受入額は約5倍、受入件数は約6倍に増えており、返礼品の対象市場の規模はハイペースで拡大している。

 この返礼品市場において、市場の成長スピードを上回るペースで伸びているのが旅行関連商品だ。ふるさと納税サイトの老舗で掲載自治体数が最大級のふるさとチョイスを運営するトラストバンクによると、宿泊券とチケット・イベントカテゴリーの返礼品登録数は19年末に約3000件だったが、21年末には約7400件まで増えた。増加傾向は22年も加速しており、11月15日時点で登録数が1万件を超えている。旅行関連の返礼品に関する1~9月の寄付額は前年同期から44%拡大した。

単なる旅行者とは違う

 旅行・観光業界のアプローチは決して目新しいものではない。ピーチ・アビエーションは14年にふるさと納税に関して航空会社で初めて自治体と連携し、大阪・泉佐野市にポイントとオリジナルグッズを提供。15年からは連携を5自治体に拡大するなど早くから取り組みを進めてきた。

 また仲介事業では、日本航空、全日空、JR東日本といった運輸大手のほか、旅行会社ではJTBが「ふるぽ」で進出。各社は自社で使えるポイントやマイルを返礼品として提供するほか、宿泊と交通を組み合わせた旅行やトラベルクーポン、宿泊券等を返礼品として用意している。さらに日本航空はふるさと納税の新たな形である旅先納税の普及拡大に乗り出し、旅先納税のソリューションを展開するギフティと11月に業務提携した。

 こうした幅広い取り組みもあって、旅行関連商品の拡大への下地ができてきた面がある。ただ、返礼品市場全体の中ではまだ存在感が十分発揮されているとはいえない。

 北海道弟子屈町でカニなど地元特産品の製造加工・卸売りやEC事業を行う北国からの贈り物は、15年から返礼品を出品してきたなか、新たに旅行商品をラインナップに加えた。地元を活性化しようと第3種旅行業登録を取得して昨年からオーダーメードのプライベートツアーを手掛け、口コミで経営者層のファンを増やしている。モノの出品で経験を積む事業者が新たに旅行商品を出品するという異色の存在だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年12月5日号で】

関連キーワード