脱コロナマインド 萎んだ空気を吹き飛ばせ

2022.10.03 00:00

(C)iStock.com/Choreograph

日本に重くのしかかり続けている新型コロナウイルス感染症。2年半以上に及ぶコロナ禍は、日本人の心をすっかりなえさせてしまったようだ。日本を覆うこの厄介な空気感をなんとか吹き飛ばせないものだろうか。できることならツーリズムの力で。

 東京商工会議所が7月にまとめた「東京の観光復活に向けた産業・地域振興に関する重点要望」でコロナマインドという表現が使われた。東商は、日本人に根強く残る感染の中心地としての東京というイメージを指してコロナマインドと表している。しかし実際に日本人の脳内に残るコロナマインドとは、もっと広く深く重いイメージなのではないだろうか。

 7月下旬に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染者数に関して日本が世界最多になったと発表したことは悲観的なイメージを上塗りすることになった。日本各地で医療逼迫が問題化し、政府がマスク着用の不必要性を説いても人々は猛暑のなかマスクを外さない。経済は世界情勢の影響もあって一向に上向かない。当然のことながら観光の復活も進まない。GoToあらため全国旅行支援は延期を繰り返し、ようやく開始に向けた調整が動き出したばかり。目立つのはコロナマインドを重苦しく補強する材料ばかりだ。

 コロナマインドをあくまでも東京の視点で捉える東商は、その払拭について「東京の安全・安心について、正確な情報を発信していくことが極めて重要である」として、全国に向けた丁寧かつ強力なメッセージの発信を関係者に対して求めている。しかし、コロナ禍は悲しいかな、すでに全国区の事態となっており、東京や大阪、札幌といった感染者数の多いエリアと結びつけて考える日本人はコロナ禍当初のように多くはない。むしろコロナマインドが暗く覆うエリアの全国への拡大が、エリアごとの感染状況の濃淡を注視する心理を上回っているというのが現状だろう。

 東商の重点要望に先立つ今年3月、日本経済団体連合会は、「次なる波に備えつつ、出口戦略に舵を切れ」との提言を行った。社会経済活動の制限を伴うパンデミック対策からの出口を探り、エンデミック対策に舵を切るべきだという主張だ。提言では、出口戦略の内容について、「国際的な人の往来の本格的な再開」や「感染症法の指定感染症の位置づけによる措置の簡素化等」「業種別ガイドラインの簡素化」などと並び、「社会・国民のマインドチェンジ」を挙げている。

 そのマインドチェンジのためには、科学的・医学的な情報とその分析を合理的な対策にまとめ上げ、国民に対してタイムリーに提示していくことによって、社会全体のマインドチェンジを促していくことが肝要であり、コロナを正体不明の存在として不安視するマインドからの脱却を図るべきだ、と主張している。

 半年前の時点でこの提言にあるような対応がなされていれば、少なからずマインドチェンジが図られ、コロナマインドの払拭も現在よりは進んでいた可能性がある。しかし、この半年間の現実がどうだったかは言うまでもない。

 旅行需要という視点で見れば国内旅行に明るい兆しはある。リクルートじゃらんリサーチセンターは「じゃらん宿泊調査2022」と「第2回新型コロナウイルス感染症による旅行価値観への影響」の結果として、宿泊者数について昨年初めてランクを下げた東京がトップに返り咲き、全体的に大都市圏への旅行も回復傾向が見て取れることや、ウイルスへの恐怖感を示す指標が下がり旅行意欲が高まっていることを指摘している。一方でコロナから受けた心理的ショックや、そこから逃れるために娯楽を求めたり現実逃避したりする傾向については、その名残が続くのではないかと分析している。

 このコロナから受けた心理的ショックの名残こそがコロナマインドを構成する大きな要素の一つでありそうだ。このような心理状態に変化をもたらし、悲観を楽観に、不安を安心に、萎縮を成長に変えていかねばならない。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年10月3日号で】

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