マニアのハートのつかみ方 ついついほれ込む顧客対応

2022.07.18 00:00

(C)iStock.com/uchar

羽田発紋別行きのANA便に乗り、同じ飛行機で羽田に戻る紋別タッチが話題だ。多くはマイレージを稼ぐ目的の航空マニアだが、地域側の仕掛けも奏功し、路線維持や地域との交流、現地への滞在など思わぬ波及効果が生まれている。マニアの行動心理を捉えたマーケティングはツーリズムのさまざまな局面でも応用できそうだ。

 「紋別タッチ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。最近は週刊誌やSNS、北海道のローカルTV番組、朝のワイドショーなどでも全国的に取り上げられた。航空マニアの間ではマイルを貯めるために、またはステータスを維持することを目的に「修行」という航空旅行を行っている。到着地で観光や宿泊なしに次々に飛行機に乗り続けるため、体力、時間、金銭を消耗するなど「苦痛」を伴うことから僧侶の修行に例えられたものだ。「航空修行」「マイル修行」という言い方もある。修行する航空マニアは「航空修行僧」「マイル修行僧」などと呼ばれる。

 空港到着後に同じ機材で出発地に戻ったり、次の目的地へ飛行することをタッチ・アンド・ゴーといい、その頭をとって「タッチ」と呼んでいる。紋別空港を目的地とするタッチが「紋別タッチ」。これは羽田空港から1日わずか1便のみの紋別空港行きのANA便に乗り、時刻表上40分で折り返すことをいう。正確には保安検査場通過は出発時刻20分前のため、ボーディングブリッジがない紋別空港ではタラップを降り、エプロンを歩き、ターミナルビルに入り、搭乗手続き、軽食カウンターで飲食、売店でお土産購入、タッチする人を迎える地元の方々との交流を20分で済まさなければならない。

 この紋別タッチは「流氷タッチ」という表現でパラダイス山元氏の著書『パラダイス山元の飛行機の乗り方』に詳しく紹介されている。山元氏はANA好きが集まるフェイスブックグループ「ANAプレミアムメンバー(DIA/PLT/BRZ/SFC/ミリオンマイラー/ANA好きな人)」の一員としても知られ、彼の言葉は航空マニアに大きな影響を与えている。

雨の日も雪の日も出迎え

 紋別タッチの立役者として欠かせない人物が、紋別セントラルホテルの田中夕貴常務取締役である。田中常務が音声SNSのクラブハウスに迷い込んだことが紋別タッチが広がるひとつのきっかけとなった。クラブハウスにFBメンバーの多くが参加する「ANA推しが集う青い沼」というルームがある。毎朝6時にパラダイス山元氏が主宰者となり、FBグループ管理人など3人がモデレーター、他の参加者は聞き手にまわるラジオ的な配信が21年2月から行われている。そのルームを田中常務が聴いている時に、たまたま話題に紋別という言葉が出てきたことから、パラダイス山元氏が田中常務を引き上げ会話したことがきっかけとなった。

 紋別タッチが大々的に行われるようになったのは21年6月からだと思う。羽田と紋別空港間ではB737-800という機材が使用されているが、それまでは1世代前のB737-700が使用され、紋別空港には21年6月20日にラストフライトすることが発表された。クラブハウスではこの日に紋別タッチや紋別ステイ(モンステ)をして最後の紋別便を満席にしようと呼びかけられ、紋別到着便が定員120人に対して104人、紋別出発便には92人が搭乗することになった。

 田中常務をはじめ観光関係者が「#モンフラ(紋別フライトのこと)ありがとう」の横断幕やプレートを用意し、空港ターミナルビル2階の展望デッキで待機した。降機した旅客がターミナルビルに入る際、2階デッキから直接声をかけるだけでなく、交流できる。この日、デッキにはたくさんの人が出迎えた。ここで田中常務と到着客にいたパラダイス山元氏が初めて顔を合わせ、空港を訪れた宮川良一紋別市長に紹介したことで、地域全体で紋別を訪れる航空マニアを迎える動きへとつながっていく。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年7月18日号で】

杉山維彦●大阪国際大学短期大学部ライフデザイン学科教授。イラン航空東京支店、高崎商科大学などを経て現職。専門はイスラーム&ハラールだが、自身が修行僧でANA応援マニアとしてソロ活動中。紋別28タッチ済み。ANAダイヤモンドメンバー10年目。日本国際観光学会会員。日本イスラーム学術会議会員。

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