テイコウセイリョク

2022.05.23 08:00

 春の選抜高校野球で準優勝した近江高校がその報告に市役所を訪問し、そこに地元のご当地キャラクター「ひこにゃん」が同席していたことが物議を醸した。報道によると、その写真の市のウェブサイトへの掲載可否を高校に尋ね、判断に困った高校が県高野連に尋ね、県高野連が日本高野連に尋ね、結果NGとなった。理由は、「選手の商業的利用を禁じた日本学生野球憲章に抵触する可能性がある」。ひこにゃんはキャラクターグッズなども多数発売されており、その販促に活用される懸念があるという。

 しかし、熱戦を中継するNHKで流れる映像は、甲子園球場のスポンサーのロゴが掲出されたままだし、夏に民放で夜に放送されるダイジェスト番組はCMのあるれっきとした商業番組だ。ご当地キャラクター不在でも、こうした勝利報告で政治家たる首長を訪問するのはそれ自体彼らの宣伝に帰する側面もある。なにより地域の旗を背負って全国で戦った高校生の勝利により、同じく地域の旗を背負って日々努力しているご当地キャラクターの知名度が上がり、グッズが売れたりその地に訪れようとする人が増えたりすることのどこがいけないのだろう。

 結果として、この報道により高野連への苦情が殺到したようで、数日で「野球憲章には抵触しない」と全面的に判断を翻すことになった。この問題の本質は、こうしたケースに現場で判断する力を持たず、何でもお伺いを立てねばならない仕組みや風土と、単に上がってきたものにしゃくし定規にイエス・ノーを繰り返すだけの組織に権限が集中している結果であることだ。

 この4月、埼玉県熊谷市の熊谷桜庭ではいつも通り桜祭りが開催されて多くの人々で賑わっていた。屋台も出て食べ歩きを楽しむ人、満開の桜の下の菜の花畑の中でシートを広げ花見を楽しむ人であふれ、マスク姿を除けば昔ながらの光景が戻った。一方、東京の上野公園では「今年の花見は歩きながら」の看板の下、宴会とライトアップのない花見散歩を強いられ、目黒川では「花見は自粛」の大きな看板の横で「混雑のため右側通行」の看板を持った警備員が大声で大混雑の群衆の整理をしていた。花見ひとつとっても自治体により、東京でも区によって判断はバラバラだ。

 全国の夏祭りや花火大会の開催と中止の発表が相次いでいる。いまのところ半々といった状況か。それぞれ事情と理由があるだろうから個々の判断にあれこれ言うつもりはない。しかし、その判断のプロセスは気になる。誰がどう道筋を付けたのか、得るものと失うものはすべてはかりにかけたのか、目に見えぬ大きなものに押しつぶされていないか、あるいは誰も何も判断せず上へ上へと送っただけだったりはしていないか。

 地域のまだら模様が本格的に目に見えてくるのはこれから。日本の弱さがあぶり出される年になるかもしれない。コロナ禍やウクライナ問題、われわれはかつて想定していなかったさまざまなケースに直面し、前例のないものへの判断を繰り返している。その中には当然過ちもあろう。ないはずの前例を基準に判断するなどもってのほかだが、判断しないこと、判断のボールをいたずらに回すだけなのはもっと罪なことだ。

 何か新しいことをしようとすると必ず現れる抵抗勢力(テイコウセイリョク)。それを乗り越えるためには判断や決定のプロセスを見直す必要がある。知らず知らずのうちに自分自身が経験を振りかざす抵抗勢力になってはいないだろうか。「調整」と「理解を得る」ことに時間をかけてきた日本。それがコロナ禍でまるで整合性のとれない施策の山を築いたことを忘れてはならない。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役営業本部長 チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。

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