失敗できない出口戦略 政府・地域・産業界のインバウンド再開

2022.04.04 00:00

(C)iStock.com/Gearstd

長引くコロナ禍だが、世界はパンデミック収束を見据えた出口戦略について本格的に実行する段階に入った。すでに各国で入国制限緩和の動きが加速。観光客誘致競争も始まりつつある。鎖国との批判も多かった日本も3月から入国制限を段階的に緩和。政府・地域・産業界にとって、的確な観光の出口戦略へと踏み出すことが急務となっている。

 新型コロナウイルスの感染者数は依然、世界各地で高止まりの状況にある。ただし感染拡大の主要因が、これまでのデルタ株などと特性が異なるオミクロン株へ移行するなかで、感染拡大への対応策にも変化が求められるようになった。

 世界保健機関(WHO)は1月19日、コロナ感染拡大の最新状況に関し「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が継続している」との緊急委員会の定例会合における判断を公表。同時にオミクロン株の拡大抑制策としては渡航制限措置が現実的な対策ではないという見解も示した。WHOは、オミクロン株が確認されて以降の各国の渡航制限の感染拡大抑止効果について、感染拡大を抑制できておらず「失敗だった」と断じ、渡航制限の効果に疑問を呈している。

 また新たな変異株に対してはワクチン接種や検査等で感染を抑えるべきだと主張。変異株が発生した国が、渡航制限を嫌って速やかな報告をしなくなる弊害を挙げ、渡航制限のマイナス面を指摘した。その上で緊急委員会の結論として、加盟国に対して渡航制限の撤廃・緩和を勧告した。

 WHOのこうした発表を受け、観光産業関連機関も動きを見せた。世界観光機関(UNWTO)は「渡航制限は特に海外からの観光客に依存している国・地域にとって、むしろ害を及ぼす」との声明を発表。IATA(国際航空運送協会)もウィリー・ウォルシュ事務総長が「オミクロン株は世界のすべての地域に存在し、ごく一部の例外を除いて旅行がリスクを増加することはない」と主張。コロナが風土病の段階に入ったとして、渡航制限の緩和を加速するよう各国政府に要請した。

 世界各国における入国制限緩和の流れは確実に強まっている。ジェトロ(日本貿易振興機構)によれば東南アジア各国で入国制限の緩和が加速。同地域のコロナ新規感染者数のレベルは高いものの、制限緩和にかじを切る国が多い。

 インドネシアは3月8日から、ワクチン接種を2回以上完了した対象者は、入国後の隔離を1日に短縮。シンガポールは互いにワクチン接種完了者が隔離なしで渡航できるワクチントラベルレーンの対象国・地域を拡大。3月16日からインド全都市、ギリシャ、ベトナムを加え、対象国は計32カ国・地域となった。またジェトロによれば、マレーシアは4月以降、ワクチン接種2回の完了者は入国後の隔離を不要とする見通しだという。

 すでに海外の観光客を隔離なしで受け入れ始めている国も少なくない。フィリピン政府は2月10日からワクチン接種完了者のビザなし入国を認め、到着日から7日間をセルフモニタリングすれば隔離を不要としている。

 タイは3月1日からテスト・アンド・ゴー制度(ワクチン接種済み外国人の隔離免除入国)を利用して入国した旅行者の制限を緩和。到着1日目のPCR検査で非感染が確認されることを条件に、ホテル自室からの外出を認めることとし、旅行者は実質的な隔離なしでタイ旅行を楽しめる。

 厳格な入国制限を敷いてきたオセアニアでも制限緩和の動きが目立つ。オーストラリアは外国人の入国を原則として認めない厳しい入国制限を続けてきたが、昨年11月以降、方針を転換。ニュージーランドやシンガポール、韓国、日本から来たワクチン2回接種完了者に対して順次入国を認めた。さらに2月21日からはすべての国からのワクチン接種完了者に隔離なしの入国を認めている。

 オーストラリア同様に厳格な水際対策を行ってきたニュージーランドも2月からは制限緩和に動き始めている。5段階の段階的緩和だが、7月までには第4段階としてオーストラリアからの渡航者と、日本を含む入国ビザが必要ない国からの渡航者の受け入れを再開し、第5段階として10月にはすべての国・地域からの渡航者に国境を開く計画だ。最終段階はまだ先の話だが、はっきりとしたロードマップが示された点が注目される。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年4月4日号で】

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