観光のリカレント教育 コロナ後見据えた学び直しへ
2022.03.21 00:00
コロナ禍により消費者意識は変質しており、商品やサービスの提供者に求められる知識やスキルも変化を余儀なくされている。観光産業においても対応は急務だが、ビジネスが停滞中の現在は学び直しの好機と捉えることもできる。アフターコロナの再生へ向け、重要性が高まる観光分野のリカレント教育について考察する。
観光庁の和田浩一長官は昨年8月の会見で、アフターコロナの中長期戦略について問われた際に、リカレント教育の重要性について言及した。和田長官は観光関連産業の課題として生産性の低さを挙げ、アフターコロナの立て直しに向けては、高付加価値化などによる増収策とDX(デジタルトランスフォーメーション)等によるコスト削減策の両面の取り組みが必要だとした。そのうえで、これらの取り組みを企画・実施するには中核人材の育成が欠かせないことから、「マーケットの分析手法や新商品開発等のノウハウを習得するリカレント教育の実施、また世界レベルの宿泊施設におけるサービス提供に必要な知識や教養を取得するための研修等の実施に取り組んでいる」と説明した。
さらに宿泊産業においては、北海道のリゾートホテルがリカレント教育を通じて学んだマーケット分析の手法を活用して高級客室の増築等を実施したところ、過去最高の売り上げを更新した事例もあると紹介。リカレント教育はビジネスの成果が十分期待できる取り組みであるとした。
観光庁はこれまでも観光経営マネジメント人材育成事業として、観光産業をリードするトップレベルの経営人材の育成、観光の中核を担う人材の育成・強化、即戦力となる実践的な観光人材の育成に注力。経営人材の育成のため大学との産学連携による観光MBAが設置されており、業界人や社会人のリカレント教育の役割も担っている。また、即戦力の育成についても、働く意欲のある女性・シニア等の活用を掲げ、休眠市場へのアプローチという形のリカレント教育に取り組んでいる。
21年度は「上質なサービスに関するリカレント教育における業務」を企画・実施した。観光庁はコロナ禍で国内外の観光需要が大幅に減少している状況を「観光先進国実現に向けた助走期間」と捉え、リカレント教育の好機としている。事業内容については、上質なサービスに関する講座をベースに大学でのリカレント教育として実施するもの。海外からの富裕旅行者の訪日促進を目指すには、海外では一般化しているものの日本ではこれまであまり例のない上質なサービスに関する講座を導入し、その教育効果や導入に当たっての課題について検討する必要があると判断した。同事業は公募により、青森山田学園青森大学が採択校となった。
観光庁では22年度も1億2600万円を割いて「観光産業における人材確保・育成事業」に取り組む。その中でポストコロナ時代をリードする人材の育成・強化を図るため、海外ホスピタリティ大学と連携した経営戦略プログラム等を開発し、観光関連産業に従事する社会人を対象に経営力を強化、生産性向上に資するリカレント教育を実施するとしている。
人生100年時代へ経団連も提言
現在のような市場の変革期におけるリカレント教育の重要性は何も観光産業に限ったものではなく、広く産業全般に共通するものだ。日本経済団体連合会(経団連)は1月に大学教育改革に関する提言「新しい時代に対応した大学教育改革の推進」を発表した。背景にあるのは、従来型の資本主義が終止符を打たざるを得なくなっている世界の現状がある。そこで経団連は、今後の成長戦略として「サステナブルな資本主義」を目指し、その実現に向け「Society5.0 for SDGs」を掲げている。さらにコロナ禍が「ある意味、Society5.0に向けた改革の起爆剤となった」ことも背景要因の1つとしている。
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