キーワードで占う2022年 基本計画の新目標からメタバース旅行まで
2022.01.17 00:00
ウィズコロナで旅行・観光ビジネスを開いていくことになる22年。コロナ禍で生まれた価値観に技術革新も加わって、新たなビジネスやサービスへの模索と挑戦が繰り広げられそうだ。18のキーワードから識者・記者が展望する。
<Keyword>旅行代金と消費マインド 値上げは避けられず試練に
22年は旅行代金が上昇する年となるだろう。主な要因はエネルギー価格や輸入品の値上がりなどコスト面にあるが、旅行分野ではビジネス需要の回復の鈍さもトリガーとなる。これはJR東日本がグリーン料金の引き上げを表明した理由でもある。
デマンドサイドにも単価上昇の材料がある。旅行控えでたまってきたマグマ、いわゆる繰り越し需要が最たるものだが、海外旅行に行けない間はその分の支出が国内旅行に回ることも大きい。ただ繰り越し需要は22年後半に息切れしてくる見通しもあり、海外旅行も後半には再開の可能性がある。旅行代金上昇は22年を通じた通奏低音だが、その響きは後半になると不気味さを増すだろう。
コストプッシュによる旅行代金の上昇は需要回復局面の旅行マインドに水を差しかねない。しかし旅行代金の上昇は一時的なものにとどまらない恐れがある。
コロナ前の11~19年はグローバルな国際旅行の人数と消費額の伸び率が拮抗、結果として旅行単価の伸びが停滞していた。これは10年以前と比べると特異な状況であった。しかし約10年続いたこの構図もコロナをきっかけに変わる可能性が高い。マクロにみた旅行単価の動向は物価と連動しているが、コロナ後の世界経済は過去10年と様変わりして物価上昇が進むと予想されるためだ。
海外で先行する物価上昇は国内にも波及するため旅行代金上昇は海外旅行にとどまらない。避けられない旅行代金上昇のもとでいかに顧客を確保していくか。コロナを生き残った企業に新たな試練の時が始まろうとしている。
黒須宏志●JTB総合研究所フェロー。京都大学文学部卒業後、1987年JTB入社。89年に公益財団日本交通公社に移籍。2013年12月からJTB総合研究所に出向、主席研究員。15年4月から執行役員。旅行市場動向のリサーチャーとして講演・寄稿などで活躍する。
<Keyword>基本計画の新目標 最優先順位を総観光消費額に
観光が世界中で消滅し、すべてがリセットになった。人口が減少していない米国やフランスとは異なり、生産年齢人口の大幅減が免れない日本にとって、交流人口でそのインパクトを軽減するという観光の持つ本質的な意味とその重要性をもう一度きちんと国民に理解させる必要がある。
ましてや、地方こそ多くの観光客を集める必要があるにもかかわらず、人が集い行き交うことへの心理的バリアが解けない。このままで観光立国の名を取り戻すのは困難を極めるだろう。
「明日の日本を支える観光ビジョン」の数値目標はいい線まで来ていた。コロナ禍がなければ20年の訪日外国人4000万人という数は達成していただろう。一方で外国人消費額は8兆円の目標に対して達成率60%と大きな開きがある。これは「人数」にすべての施策が傾斜しすぎたことを意味する。
日本人の観光消費額目標21兆円は達成した。しかしながら、これまで日本の観光を支えてきたアクティブシニアの団塊世代が後期高齢者ゾーンへとシフトし、人口の少ないミレニアル、Z世代が観光客の中心となりつつある。彼らの消費額はシニアより低い。
「稼ぐ」という言葉をよく耳にするようになった。人口減少数×130万円が地域で失う消費額。これを観光客でいくら埋めるか。その総額から外国人、日本人の消費額を逆算して訪問者数の目標を決める。すると、いかに単価を上げねばならないか、遠くから人を呼ばねばならないかが見えてくる。
目標の優先順位を消費額に変える。地域もそれを基本にする。それが正しい観光立国へと導く道だ。
高橋敦司●ジェイアール東日本企画常務取締役チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。
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