国内旅行に新風 海外旅行事業者の目利きとオペレーション
2021.12.06 00:00

海外旅行に専門特化してきた事業者が国内旅行分野に活躍の場を広げている。領域はパッケージツアーにとどまらず、現地発着ツアーや体験プログラムなど旅ナカ、さらには地域の観光振興にまで及んでいる。海外旅行組が手掛ける国内旅行事業の中身に着目し、市場に与える影響を展望する。
国内旅行を手掛ける旅行会社は大手はもとより、地場に根差す旅行会社、地域活性化を目的とする異業種からの参入企業まで実に幅広い。OTA(オンライン旅行会社)の台頭も言わずもがなだ。そうしたなか、海外旅行で実績を積み重ね高い支持を集めてきた旅行会社が国内旅行を手掛ける例が顕著になってきた。特にパッケージツアー企画・実施会社が顧客の高齢化などを背景にコロナ禍前から国内に領域を広げる傾向が見られる。JATA(日本旅行業協会)のツアーグランプリを例に取ると、海外旅行部門で表彰される常連がここ数年、国内旅行部門にも顔を出していることから見ても明らかだ。それがコロナ禍を境に広がりをみせている。
その1社、グローバルユースビューローはパッケージツアーを手掛ける海外組の中でいち早く国内に着手した。国内旅行ブランド「日本の旅」で今年は8~12月の5カ月で60本以上を設定。22年1~3月は35本を設定している。また「特選企画の旅」ブランドとして4本を設定した。
柴崎聡代表取締役社長はコロナ禍後に取り組んだ20年8月以降の商品について、「緊急事態宣言下で受け入れ先の現地事情によって実施断念したケース以外は100%近く催行している」と話す。人気を象徴するのが同社オリジナルの「ななつ星in九州」のチャーター企画。21年・22年とも商品設定しているが、いずれも販売直後に完売した。このほか、「日本が誇るおもてなしの船ガンツウ瀬戸内クルーズ」(22年4月11日発)など、豪華クルーズを売りにした商品の人気も高い。ななつ星やガンツウなど良質な素材を生かした商品造成のノウハウは海外旅行で培ったもので、こうした商品を購入できる顧客を開拓し維持してきた実績が国内旅行商品の好調さに反映されている。
評価が仕入れ交渉を後押し
グローバルの国内旅行は02年にまでさかのぼる。テレビの人気紀行番組『遠くへ行きたい』のレポーターを務めていた俳優の故渡辺文雄氏を案内役とする「国内雑学(うんちく)観光」の飛騨高山ツアーが最初だ。その後、長距離フライトがきつくなってきた高齢な顧客の要望に応える形で、「日本の旅」を15年からシリーズ化。国内旅行商品のラインナップを強化した。
とはいえ、これまで国内旅行は収益ベースで全体の1割程度で、あくまで海外旅行を主軸に据えてきた。それを変えざるを得なくしたのがコロナ禍だ。海外旅行停止後、オンラインイベントの実施やSNSでの情報発信の強化により顧客との関係性維持に努める一方、昨秋には高齢者向け高級マンションのサンシティと提携し、同施設の紹介事業にも乗り出した。これらの取り組みの中で最も力を入れているのが国内旅行の強化だ。コロナ禍前は5人で企画を担当していたが、一部を除くほぼすべての海外旅行企画担当者が国内旅行チームに加わる体制とした。
企画面で意識したのは、得意とする独自の音楽イベントに仕立てた「奥志賀高原で過ごす夏 『森の音楽堂』グローバルMusicサマーキャンプ」のような企画や、シェフやソムリエが旅の案内人として同行する企画だ。同社の強みの1つは直接交渉による旅行素材の仕入れ。まだ商品化されていない施設も少なくない。「食事内容はすべてのメニューを事前に調整し、観光施設の階段の段数やホテル・旅館の館内移動の距離まで確認している」(柴崎社長)など、品質管理を徹底する。
もっとも、国内旅行分野では知名度も実績も大手総合旅行会社に劣る。それでも直接仕入れで力を発揮できる背景には、海外旅行で築いた顧客からの高い評価がある。それを象徴するこんなエピソードがある。
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