観光学部はいま コロナで奮闘する教育現場

2021.04.19 00:00

(C)iStock.com/baona

観光立国の推進と歩調を合わせるように観光を学ぶ学部・学科は広がりを見せてきた。しかしコロナ禍が観光学教育を取り巻く環境を一変させた。様変わりした教育現場の状況と大学教員たちの試行錯誤を追う。

 日本を含む全世界規模でコロナ禍がここまで深刻化するとはまだ多くの日本人が想像できていなかった昨年3月、東京で開催されたJATA(日本旅行業協会)の旅行・観光業界就職セミナーには23社が出展。全国から530人の学生が参加する盛況となった。しかしその後、コロナ禍が急速に深刻度を増し、企業の採用活動も学生の就職活動にも急ブレーキがかかった。

 観光学教育の現場は一時的な学校閉鎖や休講、オンライン授業への切り替えなどの対応に追われた。学生は将来の就職不安を抱えキャンパスライフもままならない状況のもと、勉学へのモチベーション維持が困難な状況に追い込まれた。

 観光が政府の主要経済戦略の柱に据えられて脚光を浴び、インバウンドの急増に伴う旅行・観光・宿泊業の人手不足により就職環境も良好だっただけに、順調に回ってきた歯車が逆回転を始めた衝撃は大きい。

 日本における観光学系の高等教育が提供される場は限られていた。1960年代には東洋大学短期大学部(02年東洋大学に統合)と立教大学に観光学科があった程度。その後、98年に立教大学が社会学部の観光学科を観光学部に格上げしたものの大学教育における観光の位置付けが大きく変わることはなかった。変化が起きたのは2003年の政府による観光立国宣言を受けて07年に施行された新しい観光立国推進基本法が、観光振興に寄与する人材育成の重要性を説き、大学にも観光人材育成が求められるようになってからだ。

 同時に00年代半ばにはJTBや全日空、日本航空などをはじめとする観光・旅行業界の企業が就職人気ランキング上位の常連となり、観光系学部・学科に対する学生ニーズが高まったこともある。さらに大学改革によって規制緩和が進み、学部・学科の新設や改組をしやすくなった背景もある。

 00年代後半からは大学の観光系学部や学科が増え、全国で40校に迫る時代を迎えた。その後、10年代に入っても毎年のように観光系学部や学科の新設が続いた。10年には東海大学の観光学部、12年に淑徳大学の観光経営学科、13年には玉川大学の観光学部など、15年に大阪国際大学の国際観光学科や安田女子大学の国際観光ビジネス学科など、16年に新潟経営大学の観光経営学部や仙台青葉学院短期大学の観光ビジネス学科、17年には東洋大学の国際観光学部、18年には駒沢女子大学の観光文化学類や大阪成蹊大学の国際観光ビジネス学科などが開設された。20年にも富山福祉短期大学の国際観光学科が開設され、國學院大學は観光学部・観光まちづくり学科を定員300人で22年4月に開設することを申請中だ。

 文部科学省が主導して立ち上げた大学検索システム「大学ポートレート」によれば、現在、4年制大学における観光系の学部・学科は全国に43ある。加えて19年度から実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関として始まった専門職大学、専門職短期大学の制度の下でも観光系学部・学科が誕生。今年4月には芸術文化観光専門職大学の芸術文化・観光学部と、せとうち観光専門職短期大学の観光振興学科が開設された。

不安を抱える学生たち

 拡充してきた高等教育における観光人材の育成環境はしかし、コロナ禍で一転、逆風にさらされる。感染拡大防止対策として非対面、非接触が社会的要請となり教育の現場にも求められるようになった。これは、とりわけ対面式によるホスピタリティー教育や、国際性を身に付けるための留学や研修、OJTのためのインターンシップといった各種交流を重要なカリキュラムに位置づけている観光系学部・学科には痛手だった。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年4月19日号で】

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