在宅エージェントの可能性 コロナで浮上する新たな働き方

2021.02.22 00:00

(C)iStock.com/RichLegg

コロナ禍による旅行業者の廃業や人員削減が相次いでいる。離職者は増え旅行業の人材が一気に失われかねない状況だ。産業界として「人財」を生かすためにも、アフターコロナに向けた旅行業の将来的な形態の模索としても、いま在宅エージェントに注目したい。

 コロナ禍による旅行業界のダメージの深刻さは言うまでもない。周りを見渡せば、廃業に追い込まれたり、雇用調整助成金で何とか生き延びている休業状態の旅行会社は珍しくない。

 職場を失った業界人が別の旅行会社に職を得ることは現状では極めて困難だ。結果的に旅行業界そのものを離れざるを得ないという人材は今後増えていく情勢にある。旅行業界はコロナ禍をきっかけに、貴重な人材を大量に失うことになりそうな局面を迎えている。

 旅行業での経験や実績がある人材が職を失い、その知識やスキルを生かして今後も旅行業に携わる場合の選択肢として、在宅エージェントとしての独立開業という道がある。顧客対象を限定してより密接な関係を構築したり、旅行業での経験を活用したコミュニティー内での旅行相談、あるいは副業の時代の収入源の1つとして、開業費用が抑えられる在宅エージェントは有力な選択肢になるかもしれない。

 旅行業者に求められる役割も随分と変化している。かつては旅行商品の販売・流通や旅行の手配作業など組織力やスケールメリットなどが力を発揮した。しかし現在は、旅にかかわるコンテンツ情報の取りまとめや旅行者へのコンサルティングなどが旅行業者の役割としてより重視されるようになっている。さらにはOTAが商材の卸売りも手掛けるなど、オンラインによる手配・販売の支援ツールも普及しつつある。

 小規模に旅行事業を営む在宅エージェントが一般化している米国では数万人が従事しており、旅行業の形態として確立している。ホームドクター(医師)やホームロイヤー(弁護士)と同様に、旅行者は個人の旅行エージェントをホームエージェントとして位置づけ、エージェントは旅行全般のパーソナルな相談役として旅行者にコンシェルジュ的サービスを提供する。また、在宅で個人的にエージェントを営む事業者をフランチャイズ方式で組織化し、マーケティングや旅行手配の円滑化を図るビジネスも充実している。

 米国と日本では旅行業法による規制の違いはある。日本では旅行業を開業しようとすれば旅行業登録が必要で、たとえば第3種旅行業では300万円以上の基準資産額と年間取引額に応じた営業保証金が必要となる。資金的な負担が最小限の旅行業者代理業であっても、営業拠点への旅行業務取扱管理者の選任が求められる。個人で開業するなら、国家資格である旅行業務取扱管理者資格を取得しなければならない。ただしそのハードルはさほど高くない。業界人が一念発起すれば十分勝算のある挑戦のはずだ。

 日本にも旅行業起業と在宅エージェントの実現をサポートするビジネスは存在する。たとえばシニア旅行カウンセラーズは在宅営業で旅行業者代理業を営みたい起業ニーズに応え、開業を手助けするスキームを用意しており、約20年の実績がある。このほか、旅行業務取扱管理者資格を持つ主婦を募り在宅エージェントとして支店展開するケースや旅行業のフランチャイズ展開なども一時期みられた。今後は同様の取り組みがより多く求められることになりそうだ。

 観光庁としても、コロナ禍を経てこれからの旅行業のあり方を考えていくうえで、在宅エージェントの展開をより簡便にするための制度設計が必要になってくるかもしれない。既存業者の立場や消費者保護を踏まえた上で検討していく価値はあるのではないだろうか。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年2月22日号で】

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