オンラインツアーの磨き方 育てよう新たな柱に

2021.02.08 00:00

(C)iStock.com/dimamorgan12

オンラインツアーが市民権を得つつある。国内バス旅から海外を舞台とするものまで商品は広がりを見せ、大々的に商品強化を図る大手旅行会社もある。オンラインツアーを新たな事業の柱として育てる価値と可能性について考える。

 「オンラインツアー」が座りの悪い言葉であることは確かだ。そもそも旅行とは身体的な移動が伴うことが前提とされてきた。だから「オンライン」と「ツアー」は水と油の概念だったわけだ。昨年、本誌が行った各種アンケートでも、コロナ禍の下での新たな可能性としてオンラインツアーを挙げる意見が多い一方、リアルな対面のない人的交流に否定的な意見も少なくなかった。社会のさまざまな場面でオンライン化が進むほど、対面の重要性やリアルな旅行の役割がむしろ高まるとの見方もあった。

 しかし通信環境の向上やデジタル化の進展、映像技術の急激な進化で、オンラインやバーチャルの受け止め方がかつてとは大きく変わってきている。いまから13年ほど前、米リンデンラボ社のバーチャル空間セカンドライフが日本に上陸し話題となった。日産やトヨタなど日本を代表する企業が相次いでこの仮想空間に出店し、旅行業界ではJTBも出店。その後、ブームはしぼんでいったが、時を経て同じようにアバターと仮想空間を組み合わせたゲーム「あつまれ動物の森」が大ヒットし、セカンドライフとは比べ物にならない人数の参加者が仮想空間を日常的に楽しんでいる。

 オンラインツアーやバーチャルツアーに関しても同じように、ここ数年で人々の受け止め方は大きく変わっている。16年にKDDIがナビタイムジャパンと共同で開発し販売した海外旅行サービス「SYNC TRAVEL」は、VR(仮想現実)を活用したオンラインツアーだった。現地ガイドがリアルタイムで撮影する映像を360度映像のVRセットを装着して日本にいながら体験し、海外旅行をバーチャル体験する。臨場感は素晴らしかったが、当時はいまほど通信環境が整っていなかったこともネックとなり、短期間の試験販売で終了した。

 しかし現在ではズームなどを利用すれば簡単に海外と日本をリアルタイムで結ぶことができ、アクションカメラのGoProやドローンなどを使えばリアルな体験映像や絶景映像も簡単に提供できる。テクノロジーの進化と低廉化がオンラインツアーやバーチャル体験の可能性を劇的に広げる。

 そうした環境が整いつつある時に旅行業界をコロナ禍が襲った。人の移動が制限されるなかでオンラインツアーが商品化されたのは必然の流れだ。香川県の琴平バスはコロナ禍前からユニークな企画で知られていたが、いちはやくオンラインツアーを商品化。テレビ番組などに取り上げられて話題を集め、ブームの火付け役となった。

 現地オプショナルツアーを取り扱ってきたベルトラは、オンライン・アカデミーとして学びの要素を取り入れた海外・国内のオンラインツアーを工夫。国内ツアーでは6000円前後、海外ツアーでは1万5000円前後のオンラインツアーとしては比較的高額の商品もラインナップしている。

 スタートアップの「あうたび」は、会う旅をコンセプトに掲げたツアーが軌道に乗りつつあった。しかしコロナ禍に見舞われ、窮余の策としてオンラインツアーを販売したところ想定以上の集客があり商品を強化。旅の目的地の特産品などを詰め合わせた応援セットの購入を組み込んだオンラインツアーを考案、成果を上げている。

 教育旅行分野でもオンラインツアーの商品開発が進む。教育旅行専門のアサヒトラベルインターナショナルは中高生対象の「オンライン異文化体験~2時間で行く世界一周旅行」を実施。海外の同世代との交流も組み込んだ国際理解教育に役立てられるプログラムを提供する。また、JTBはコロナ渦中の修学旅行需要に対応するため、「バーチャル修学旅行360」を開発。360度VR映像体験をメインに、オンライン交流やVR映像体験を組み合わせリアルな修学旅行の代替プログラムを提供する。

HISは30万人集客目指す

 大手旅行会社の中でオンラインツアー強化の方針を最も明確に打ち出しているのがエイチ・アイ・エス(HIS)だ。澤田秀雄代表取締役会長兼社長は、コロナ禍で旅行需要が消滅するなか出演したテレビ番組で、オンラインツアーが今後売り上げの柱になる可能性があるとの期待を語った。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年2月8日号で】

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